個人としても、社会保障費抑制の観点からも予防が最重要課題
専門職である医師は 、
障害のあるチャレンジドではありません。
しかし、私多数のチャレンジドと関わる立場なので、
幅広くお話を伺いました。
■私との関係
私が倒れた当時の主治医で、
命の恩人である脳神経外科医、谷坂恵先生。
先生は大阪市内の基幹救急病院で働かれていました。
そこへ私が救急搬送され、当直だった先生と
私は「運命的」に出会いました。
そして、主治医として私の治療に当たられました。
「運命的」と言っても、ロマンチックとは対局の話。
救急搬送される患者と救命医の関係が
そういう性質のものだということです。
つまり、どちらも相手を選べない(笑)。
退院後挨拶に伺った際、
「若い脳卒中患者は珍しく、
入院当時の状態を考えると退院後の回復した
島本君とのギャップが凄かった」
そうで、私のことを特に印象に残っている患者
の一人とおっしゃっていました。
・・・・・・・・・・
脳卒中は日本人の死因の上位で
後遺症の問題もあります。
そこで、専門家の話を共有することは
有益と考え、少し専門的ですが、
誰もがなる可能性があるので、
知識として持って頂きたいと考え、
以下そのまま掲載します。
谷坂/ 普通大きい脳内出血でも
意識障害がなければ、
手術適応になりません。
また、脳梗塞のケースでは、t-PA
と言って、手術せず、点滴で処置します。
島本君の場合は出血がひど過ぎて、
「脳ヘルニア」になって、
出血のあった片方の脳が反対側の脳を
圧迫する超緊急事態
(電話でご家族に手術承諾を求めたほど)でした。
開頭して血腫(血の塊り)を除去
したのが救命のための緊急手術です。
意識が戻るまでに10日ほどかかりましたが、
何とか私はこちら側に踏み留まることができました。
ちなみに、外傷性以外で若年者が脳出血になる主因は、
ほぼ私のなった脳動静脈奇形(AVM)や
モヤモヤ病などの血管奇形。
意識が回復しても、
奇形をそのまま放置すると
再発のリスクが残るので、
治療方針が協議されました。
ガンマナイフ(放射線療法)は
奇形が大きすぎたので適用外とされ、
全摘出手術が後日行われました。
これは 緻密でとても難しい脳の手術の中でも
もっとも難しい部類の手術だったそうです。
事実、手術は当初の予定を大幅に超えて
21時間もかかりました。
こんなにかかるのは普通なのか?
そんなことはなく、
先生のキャリア至上最長記録。
私の AVMという血管奇形は、
10万人に1人くらいしかいない
と言われていて、
奇形という爆弾を抱えていても、
私のように出血まで至らない人の方が多いとか。
ここにフォーカスすると、運が悪すぎますが、
当時一人暮らしをしていた私が
たまたま人目のある職場で倒れ、
たまたま職場近くに対応できる基幹病院があった
こと等を指して、父はよく
運がよすぎると言っていました。
こういう見方をする家族だったことも
私にとってはラッキーです。
ところで、この救急病院にいた頃が
一番辛かったので、看護師等医療スタッフのことは
よく覚えています。
その中でもやはり主治医の印象は強いです。
先生は入院中に別の病院に異動されました。
この時私が、「最後までみてくれないと困る!」
と子どものように泣いたのですが、
覚えているか聞いてみると、
全く覚えていませんでした(笑)。
その後先生は各地の病院を
転々とされましたが、
私はそのほとんどに挨拶に伺いました。
それくらい私たち一家にとり特別な方です。
専門職は関わる人の人生を左右する立場
にあることが多いので、責任は重いですが、
やり甲斐も大きいとこのことから感じます。
脳外科医の場合、関わる患者さんには後遺症を伴う人が多い。
その中でこんなに訪ねてくる人は私だけだったそうですが。
■脳卒中で肢体不自由になった場合のリハビリ
これは当事者にとっては悩ましい問題なので、
このp@アートの対話は全て引用します。
島本/年齢を問わず、脳卒中により
身体機能の大きな部分を失う
ということは大きな痛手です。
社会生活との兼ね合いは当然ありますが、
機能障害レベルの話として、
特に若くして肢体不自由の身体障害者
になると、この部分の改善にこだわる面
が強いと思います。
谷坂/そうですね。
島本/今のリハビリ医療において
どのあたりまで改善を追求できますか?
谷坂/その人のまひの程度
にもよりますが、完全回復は
正直厳しいです。
ただし、CI療法や河平法のように、
様々なアプローチがあり、
慢性期(まひが固定化すると言われる
発病から半年以降の時期)
の障害に対してのリハビリが
成果を上げ始めています。
このような領域は
今後更に研究が進むと思います。
島本/発病した年齢にもよるでしょうが、
実際に慢性期という場合、
何年くらい経過した人の改善例が
報告されているのでしょうか?
谷坂/高齢者の場合、10年単位で
年月が経過すると、後遺症が無くても
身体機能が落ちるので、難しい。
でも、そうでない場合は、
発症から10年以上経過していても、
新しいリハビリのアプローチで
完全に治らなくても実際に改善する
というのは事実です。
先生は 平成24年に、
故郷の岸和田でめぐみクリニックを開業され、
地域の皆さんの健康を守り、
経営も順調らしいです。
■女医のキャリアパス
非常勤込で16年勤務医をされた後、
開業に至ったそうですが、
開業の1番の理由は、
子どもが3人でき、
ワークライフバランスを考えたから。
緊急の呼び出しもなくなり、
プラン通りだと。
収入についても質問しましたが、
かわされました(笑)。
女医が家庭を大切にしようと考えるならば、
開業医にならないと厳しいのか?
勤務医では難しいのか?
開業という方が多いが、
勤務医でも両立が可能なように
配慮してくれる病院もあり、
手術中でも帰れるようなところ
もあるそうです。
米倉涼子さん演じる「ドクターX」
の設定では、手術が趣味
という外科医なので、
手術中に返ることはないにしても、
手術中に医師が帰れるとは驚きです。
私は勿論、開業後も家族でクリニックに挨拶にいきました。
その際、私の経験を人に伝える活動
をしたいので、どこか紹介して頂けないか
とお願いしました。
その後、岸和田の看護学校を
ご紹介いただきました。
更に岸和田の「まちネット」という
地域の有志の集まりにもご紹介頂き、
そこからご縁が岸和田で積極的に活動されている
現在、私の活動を応援してくださっている方
へと更にご縁つながり、岸和田で
お話をする機会に恵まれました。
「人生は人とのご縁」だなと感じています。
■応援メッセージ
島本/ 私をここまで応援してくださるのはどうしてですか?
谷坂/頑張ってほしいからです。
今までの人生で経験したことを
他の人に知ってもらう機会を
私の少ない知り合いの中からでも提供できれば、
そこからまた今後の活動にお役に立てると思っただけです。
谷坂/生命危機に直面した現場を知っているのは、
ご家族以外では唯一私だけだと思います。
その状況から今お仕事もされ、
活動もされていて、「歳の離れた自慢の弟」
のように思っています。
精力的に活動されていますが、
身体に気を付けてますます頑張って
いただけたらと思います。
ずっと応援しています。
ささやかかもしれませんが
私が力になれることであれば
協力させて頂きます。
■予防が大切
専門家だからこそできる私がチャレンジドに
なった原因の脳血管障害と今後社会全体で取り組む課題である認知症
の予防について語って頂きました。
どう考えたって障害者になった方がいい
という論理は成立しません。
個人としても、社会保障費抑制の観点からも予防が最重要課題。
それでもなってしまったら、
医療の出番で救命から治療まで
はお願いするしかないです。
障害者になったら、
福祉というのが現在の制度設計です。
私はチャレンジドとして、同じくチャレンジドとして生きている
方々を応援していきます。
話は変わりますが、先生は高齢者を対象に講演活動もされています。
認知症と脳血管障害のことを話しして欲しい
という依頼がほとんどらしいです。
それは
ボケたくない、
不自由になりたくない
というニーズがあるからしょう。
そこで具体的にどのようなお話をされるのか、
5分くらいでまとめていただきたいとムチャ振りしたところ、
よくやるのは「健やかな脳を保つために」というテーマで、
要するに、心身ともに健康でいることが
認知症や脳卒中を予防することにつながるという事です。
と5秒でまとめられました(笑)。
役立つ話のはずなので掘り下げたのが以下の対話です。
島本/心身ともに健康でいるために、
具体的にどうしたらいいのでしょうか。
谷坂/例えば、足を鍛えるには足を動かすよね。
で、脳を鍛えるには勿論脳を使う
ということも大事です。
でも、実は内科的疾患の治療が大切。
糖尿病や高血圧そして高脂血症にならないなどです。
島本/つまり、直接的な「脳トレ」みたいなこと
だけでなく、全身的な健康に気を遣う
ことが大事?
谷坂/そうそう。なんで脳卒中になるかを考えると、
高血圧や糖尿病があることが原因であることが多い。
ですから、その根源的な部分を意識しましょう、
という話をしています。
内科的なことが大事です。
島本/それを日常でできることに反映させると、
食事などの生活習慣に気を付けるという話になる?
谷坂そうですね。まさに生活習慣病を予防することが、
脳血管障害や認知症を予防することに
つながるということです。
島本/近年脳卒中は死因の上位3播以内からは外れる年も出てきましたが、
絶対数も減っているのでしょうか?
谷坂/ 脳出血は降圧剤の普及で減っていますが、
脳梗塞はまだまだ多いと思います。
島本/脳卒中はなってしまうと、医療費もかさみます。
ですから、認知症と合わせて、重要課題です。
予防のために何ができるか、
根拠のある話に基づいて行動したいですね。