あれから2年

2023年2月2日大西紀子(以下親しみを込めてのりちゃん)は
がんとの共存人生を駆け抜け、永い眠りについた。
私は彼女と実際に会ったことが一度もない。一度も。

関東の彼女と関西の私は彼女が死の間際まで書き続けた魂のエッセイ
「死ぬ死ぬ詐欺に憧れて」のライターと編集者という関係
声を聞いたのもオンラインzoomで一度だけ。
この距離感でのりちゃんが主人公のこの原稿を書いている。

なぜ?
代わりに本何冊分になるか分からないほど

テキストで頻繁にやりとりをした。
それを今回の記事のネタ(*やりとりの引用部分を以下枠囲いして表示)とする。
この記事を書くことは、
彼女が他界してからの1年間で追悼三部作を書いてくださった
彼女の親友である松森果林さんとの約束でもある(と私は思っている)。

「紀子を偲ぶ会であやうくイカ墨パエリアに落ちそうになった紀子」 by果林さん

以下、のりちゃんが逝ったその日の果林さんとのやりとり。

果林)
しまちゃん、こんばんは。

いつも紀子ちゃんをサポートしてくれてありがとう。
本日夕方息を引き取りました。
今朝から容態急変し、午後お邪魔したときは、
鎮静剤で眠っている状態でした。
その後、息子夫婦や、北海道のお母様がかけつけました。
「何かあった時は、しまちゃんに連絡してね」
と頼まれていたので、取り急ぎ報告です。

(島本)
ありがとう。
天国に旅立ったから言うけど、
何かあった時のために

果林さんから連絡してもらうように
俺が手配するか、
自分でやるか選んで
と依頼していました。

のりちゃん「自分でやる」と即レスだった。
彼女のプライドと果林さんとの絆だね。
連絡ありがとうございます。

(果林)
そんなエピソードがあったのね。

潔い紀子ちゃんらしいわ。
教えてくれてありがとうね!

(島本)
いい歳になって、何人もの近しい人を見送るなかで
綺麗事でなく、
心でいつでも会える
は真実だと思っています。

共通の思い出はないけど、
俺だけが知ってるエピソードまた教えるね。

のりちゃん、果林さん、そしてあの人と私との間でなされたやりとり
を公開することで、のりちゃんを愛する人たちが彼女
を想う時間のおつまみを提供する。
それが本稿の目的である。

私とのりちゃん

10年以上前のこと、
私は自分の障害について発信することに目覚めた。
バリアフリーチャレンジという活動を立ち上げ
いろんな人に会いに行った。
果林さんの講演会にも押しかけ、
当時発行していたメルマガでそのレポートをしたところ、
それが幸運にも果林さんの目に留まり
私のことをのりちゃんに紹介していただけた。
私の文章が子育て期だった彼女に刺さり、
私のメルマガが配信されていたのが火曜日
ということで、私は彼女から
「火曜日の島本先生」という
称号をいただいた。
さすが自称「専業主婦天然枠代表」
ネーミング・・・苦笑

その後、彼女の子育てについて
2回にわたるメールインタビューを敢行
ここで私は彼女の聡明さを見出した。
インタビュー完結編として
3回目のオファーをしたタイミングで
彼女のがん闘病が本格化
決行を迷うも
今の彼女の言葉を記録しようと行った
インタビューは珠玉の語録に満ちた名作に。
がんが再発し、彼女がfacebookで
「死ぬかもと言ってたのに生きてるじゃん?」
と人は思うかな。注目浴びたいだけの詐欺?
という葛藤を綴っているのを目ざとく見つけ、
『死ぬ死ぬ詐欺に憧れて』
というタイトルでウチで書いて欲しいとオファー
私のしつこさに根負けしてw
不朽の連載がスタート
そこから時に弱気になる彼女を叱咤激励しつつ、
連載公開を共にしたというのが表向きの話。
界隈ではスパルタ編集長とも言われてました。

ノリちゃんの葬儀でも掲示された果林さん作のフライヤー

詐欺は未遂!?

彼女が亡くなった後、私と果林さんの間で
死ぬ死ぬ詐欺は未遂だったのかという話で盛り上がったことがある。

2023.3月(四十九日前後)
(果林)
死ぬ死ぬ詐欺未遂?つまり詐欺にあわずに終わった?
というのは死ぬ死ぬ言いながら死なずに終わったという意味?
ああ、訳が分からなくなってきた。
*果林さんは詐欺に「あう」と言う表現を使っていて、
原文のまま引用した。確認していないが、
のりちゃんは死ぬ死ぬ詐欺をする側なので、
周りの人間の立場として、詐欺にあうと表現されたのかも

島本)
⁉️
死なずに終わってないやん?
死ななかったら詐欺だったけど、
死んじゃったから詐欺は未遂やんか

果林)
そうか。
詐欺にあわずに死んでしまったから未遂ってことだね、
ややこしいーー🤣

島本)
ややこしくねぇよ
詐欺は重罪なのね。

だから、「オレオレ詐欺」に被せて、悪事感を漂わせつつ
「憧れて」というワードで、先の楽ではないだろう
道を連載開始当時に
俺なりに思ってこのタイトルにしてん。
詐欺は本来未遂であった方がいいけど、
「死ぬ死ぬ詐欺」だけは成し遂げられて欲しいというロジック。
願いは届かなかったけどね。

Another story 死ぬ死ぬ詐欺を成し遂げて

私は自分が状況に引っ張られて暗くならないように、
物理的距離があるのをいいことに
意識的に
カラリとのりちゃんとやりとりするようにしていた。

しかし、今読み返すと遠慮なくモノ申していて、
ご家族に怒られるかもしれないとも思う。

彼女が在宅に切り替わったタイミングで
こんなやりとりをした。

2022.12月

(紀子)
まだ生きてるよ!
家に帰ってきました。

果林ちゃんに私が死んだ時のしまちゃんへの連絡
頼んでおきました。
で、締めの記事を
かりんちゃんに書いてもらう事も頼んだよ。

最後は心配なく!

(島本)
きっと今ののりちゃんだから感じられる幸せってあって、
俺より先に死んだとしても、
少なくとも俺が死ぬまでは俺のなかで生き続けるし、
子供たちやお孫さんと一緒にもっと長く生きられる。
果林さんへの手配ありがとう。

でも、果林さんが最終回を書くの?
すごい締め方やな
追悼記事は任せて。
死ぬって決めすぎ?…笑

俺は余命の話は外れると思ってる。
手話の会のメンバーと来年の桜を見て、

先生に
「私死んでないんですけど?」
と意地悪な笑みを浮かべて言ってよ。

基準になっている余命の期間を過ぎたら、
もう詐欺と言ってもいいでしょう。
編集者としてはあとがき的な位置付けで、


「死ぬ死ぬ詐欺を成し遂げて」
で一旦締めるシナリオを考えてる。
その先書きたければ、続編。

(紀子)
しまちゃん、こんばんは♪
いろいろ了解
シフォンケーキ作ったから送るね。

開けるの、難しいとかある?
函館からの羊羹も入れてあるけど苦手なら誰かにあげてね。

前述の「送るね」の後、手紙と共に送られてきた お嬢さんとの合作というシフォンケーキ

のりちゃんの直筆メッセージ。「もう一回くらい書けるかな―、待っててね」 の言葉どおりに果林さんに託された次の『弱音』が遺稿に。 天然のくせに。。

私は割と楽観的だ。
いろいろ考えはするが、
のりちゃんの病気を治す能力が自分にない以上、
深刻になってもどうしようもないと考えていたし、
神頼みするキャラでもない。

遠く離れていたため、連載第7回『貴族』内で
のりちゃんが記した
「ついにいよいよの時がきている。
11月の抗がん剤終了後、副作用が明けても吐き気が治らず…。」

の温度もわかっていなかった。
だからこそ、私とのりちゃんはこのテンションだった。

自己弁護ではないが、
こういう距離感で
フランクに話せる関係の私がいたことは、

彼女にとっても良かったのではないか、と思っている。
あっちで初顔合わせの機会に、答え合わせしたい。
そして、何度でも「ありがとう」と伝える。

というのも、今回の記事執筆にあたり、
彼女の関連記事を精読し直し、その価値を再発見できたから。
彼女の作品を読めば、月並みだが、もっと真剣に生きようと思える。
文末に作品へのリンクがあるので、読んでみてください。

終わりに

最後に、のりちゃん伴侶とのやりとりをご紹介しよう。
*のりちゃんだからこそこの関係も成立したかと…

紀子の生きた証が皆さんの心に残る事を祈っています。
島本さんには私も感謝しています。
人は皆んないろいろな物を背負って生きています。
それが辛かったり、誇らしかったり、
見方や価値観に振り回されながら。
自分の背負ったものを誇りに出来る社会、
誇りにする勇気が出る発信。

私には難しいですが、
それをやっている果林ちゃんや島本さんに
紀子は勇気づけられ、救われたと思います。


2023.8月(果林さんの追悼三部作制作過程で)
(島本) 
果林さんによる続編
ご覧になっていただいたようでありがとうございます。
 今回の原稿は果林さんがご家族に伝えたい事が
ベースになっていることを
制作サイドとして明言しておきます。
私から聞いたこと、果林さんにはご内密に。
 
離れた場所にいる私としては今回の原稿を読んで 
のりちゃんと果林さんにある友情を超える何か、
そしてのりちゃんのご家族への愛にしびれました。

紀子が最後まで私たちの事を
思ってくれていたと思うと
いなくなったことが悔しくて、
寂しくてなりません。
多分紀子もそうだと思いますが、
まだ、もっと一緒いたい、
いられると信じていたと思います。
だからこそ、伝えられなかった事もあるはずだし、
今となっては、後悔というか、
そんな事も考えます。


(島本)
お気持ちをお伝えいただき
ありがとうございます。
最愛の方ですからね。
私のしたことにどんな意味があるのだろうか
と折に触れて考えましたが、
今回の果林さんの原稿で、
締めを果林さんに託した経緯を知り、
彼女が日々を過ごす中で連載を書くことは
自分を見つめ、前を向く時間
にはなったのかなと思えました。

私のような距離感でも
こんな風に都合よく意味を見出すのがだと思います。
思い続けるのは自由なので、
心が落ち着くように願っています。
のりちゃんと果林さんがつくった井戸端手話の会に
現在もお嬢さんが参加しているそうだ。

ステキな繋がりだなぁと直接見ていない距離にいるからこそ
しみじみと感じています。彼女の肉体が消えても、
彼女の息づかいのようなものがこの場には宿っているのでしょう。
そして、彼女の言霊は、これからも読者の心を揺さぶり続けるはずです。
*下記よりご覧ください。

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投稿者プロフィール

大西紀子
大西紀子
知的障害&自閉症の娘を持つ母
卵巣がんと共存人生
手話通訳士に憧れる井戸端手話の住人
専業主婦天然枠代表