まさかの特別編

そう、著者大西紀子(以下、のりこ)の死により
死ぬ死ぬ詐欺は未遂に終わったはずだった。
が、のりこは編集の私に内緒で企んでいた。

編集者島本はそのことを彼女の死後数週間くらいだったか
彼女の親友である松森果林さん(以下、かりん)から

送られてきた「実は、ほんの数行だけど書きかけの原稿があるの」
というメッセージで知った。

そして、「詐欺の続き」を公開することは私のミッションとなった。
理由は本文に譲る。

特別編は全3回で1周忌に締める予定(「遺稿」も生かす)
さすがにのりこは筆をとれないので、かりんが後を受け継ぐ。
*かりんは島本とのりこのご縁を繋いでくれたキューピットでもある。

のりこから託されたバトンを受け取ったかりん。
二人が紡ぐ物語の続きをどうぞ!

「ついにいよいよの時が」
と昨年12月17日連載第7回目がアップされてから一ヶ月と二週間。

2023年2月2日、この連載エッセイ「死ぬ死ぬ詐欺に憧れて」
の執筆者である大西紀子ちゃんが、息を引き取った。
そして昨日3月22日、四十九日を迎え、七週間がたったことになる。

「もし私が死んだらかりんちゃんから、しまちゃんに連絡してもらえる?
死ぬ死ぬ詐欺の締め、かりんちゃんに書いてもらいたい。あとがきみたいな。」

こんなLINEをもらったのは昨年12月15日のこと。

もちろんだよ。そう答えて、
そしていま、書いている。

筆が全く進まない。
昨日からいろんな言葉が浮かんではたゆたい、
散らばり、まとまらない。

三途の川はどうだった?
極楽浄土はどんなところなのか?
本当に華の雨は降ってるのか?
飯はうまいか?

本人の言葉で綴ってはくれまいか。ダメか。

「紀子ちゃん」は戦友という言葉を超え、
血肉を分け合った友のような存在だった。

20年前、幼稚園入園時、子どもが同じクラスで
たまたま隣に座っていた感じの良いママに声をかけた。
私は耳が聞こえない。
そのことを伝えると彼女は笑顔で、
はっきりとした口の形で話してくれた。

笑顔が素敵すぎるのりこ(右)&かりん

なんて素敵な人なの!
私は彼女の虜となり、
彼女は手話に興味をもって手話の虜となり、
ママ友を集めた「井戸端手話の会」を一緒にたちあげた。
以来20年間、手話をはじめ育児や家族のこと、
学校、進路、障害、社会、ありとあらゆることついて
思いを分かち合ってきた。

お互いのこれまでの人生の中で、
心の奥底に沈ませていたマグマのようなものを共に覗きこみ
「この言葉で表現できない様な感情なんだろうね」
「そうそう。誰にも伝えられないから自分の中にのみこんでしまいこむような」
とかなり抽象的なレベルで共感できる稀有な人だった。

そして私はどこか抜けている。

「洋服の前と後ろ逆に着たまま会議に参加してた」
と言えば、

「あるある!私なんてコートのベルトにハンガーぶら下げたまま歩いてたわ」
と私の斜め上を行く天晴れな人だった。

だから、「締めの原稿」なんてまだまだ書けそうにない。

彼女が連載を始めた2022年5月のメールのやり取りを読み返してみた。

(かりん)
一つ聞いてみたいことあったんだけど、いいかな?
確認せずに聞くね。

病気が分かって、「なんで自分が」
という思いもあったのではと思うのだけど。
そうした気持ちって、どう感じてる?どうしてる?

(のりこ)
確認せずに聞くね。に笑ったわ!
でも聞いてくれて嬉しかったよ。すごく嬉しかった。

泣きそうになっちゃったよ。
私の気持ちの中に「なんで自分が」
という思いもあったのでは、って。
私の気持ちを考えてくれたなんて。
「なんで自分が」って気持ち、今はあまり感じてないよ。
不思議よね。
多分「なんで自分が」って病気の事じゃなくてほかの事で
小さいときからずっと感じていたのかもしれないな。

そうして彼女は、連載6回目で触れている
「小さい頃、いろいろな理由で親や大人を信用していない時期」
について
語ってくれた。その後こんな風に続けている。

(のりこ)
「なんで自分が」というよりも…
娘の障害が分かったとき、息子が家出したとき、夫の不調

この3つが結婚後に強く思った
「なんで自分が」というよりも
「なんで自分の家族が」って思った3大出来事

だから今自分が病気になっても「なんで自分が」よりも
みんなが私の事を心配してくれたり、気にかけてくれたり、
そんなことが嬉しくて…
一人じゃないって思えて嬉しくて仕方がないの。

夫も息子も娘も、何度も「死にたい」
って思うほどつらいことがあって
人生辛くても死ねなくて生きるしかないって感じながら生きてて

それをずっとそばで見てきてどうにもこうにも
変わってあげられなかった辛さと比べたら
今は「なんで自分が」って気持ちは薄いかな。

家族をだれよりも愛していた彼女は
家族ひとりひとりに対して、真摯にまっすぐに向き合っていたし
自らが極限状態におかれていても心のなかは
家族への愛と周囲への感謝であふれていることを伝えてくれた。

そのことを、いま、彼女の家族をはじめ
この連載エッセイを読んでくれている方々と共有したかった。

だから、「締めの原稿」なんてまだまだ書けそうにない。

さらにメールのやり取りはこんな風に続いた。

(のりこ)
今できることをしっかり楽しんで、
私がいなくなっても「あなたのお陰でいい人生でした。」
って最大限の感謝を伝えて大満足で旅立つ予定なので、
もうこれは絶対のお約束なのでちょっとの間は悲しんでも、
私の「手ブラ」ネタでいつまでも笑っててね。

これからも笑ってもらえるように「ネタ」
をもっともっと量産せねば‼

夜なのに~全開!ほんとに病気なのか?

その言葉どおり、この後も
「ネタ」を量産し続けたのはいうまでもなく。
同じようにご家族が格別のネタを量産し続けているので、
これはまたの機会に。
「手ブラ」ネタも気になる人は多いだろう。

だから、「締めの原稿」なんてまだまだ書けそうにない。