―音楽療法士、臨床心理士の資格を持たれていて
その知識とスキルをいかしてお仕事をされているんでしょうか?
(トトロの森)
そうですね。児童発達支援と放課後等デイサービスを
併設している職場にいます。
―児童発達支援というのは?
(トトロの森)
0歳~就学前までの発達障害のお子さんの支援です。
―ちなみに、療育施設というのは、どのようなところですか?
(トトロの森)
言語聴覚士、臨床心理士、音楽療法士などの専門家が集まって、
子供の発達を促すところです。
―その中で、音楽療法は具体的にどのようなアプローチなのでしょうか?
(トトロの森)
そうですね。例えば、言葉がゆっくりなお子さんに歌などの音楽を使って、
子供の発声を引き出す。それを言葉につなげていくようなことをします。
2,3歳でまだ言葉がなくて「あー」「うー」のような言葉以前の段階
の子がいたら、その子が好きな遊びでもいいんですけど、音楽を見つけて
療育として音楽を使うとその子がノッてくるんですよ。踊りだしたりとか。
―文字通りノリがよくなる?
(トトロの森)
はい。で、楽しい気分になると発声がすごく増えるんですよ。
嫌な感じではなく、「アッ!」とか「キャッ!」とか叫び出す。
「あ」だけだったのが、「あ~ッ!」とか言うようになってきます。
子供ってはしゃぐじゃないですか?
―はい。
(トトロの森)
その楽しい気持ちを利用して、まずは発声を増やす。
で、発声が増えていくと今度は自然とあいうえお順の五十音の
母音や子音がどんどん出てきます。
五十音の半分くらいが出たら、
大体一語は喋れるようになるんですよ。
知らない間に童謡とかをワンフレーズでも
歌えるようになっていたら、
日常生活でも二語文は
出るようになっています。
―二語文?
(トトロの森)
公園、行く」とか「パン、食べる」
とかそういうのが出てきます。
―生きていくために必要な最低限のボキャブラリーが備わってくる感じ?
(トトロの森)
そうですね。
歌とかを用いて、楽しい気持ちを引き出して、知らないうちに言葉が増える
これが「音楽療法」ですね。
―まとめると、音楽療法の目的は発声から発語につなげること?
(トトロの森)
言語面ではそうですね。
―あとは情緒面への作用ですか?
(トトロの森)
あ、そうです。すごく興奮している子や
発達障害の子の中には、
筋肉の力を抜けなくて、
身体がガチガチの子がいます。
リラックスを目的に、その子と落ち着いた音楽を聴くと、
すごく力が抜けたり、表情が和らいだりもするので、
リラックスの目的でも使います。
―音楽療法に必要なスキルはどのようなものですか?
(トトロの森)
音楽療法士の有資格者であることが望ましいと思いますが、
ピアノを使えたらいいですね。ただ、いろんな楽器を使う
音楽療法士がいて、ピアノに限らずギター、フルートなど
自由です。
―そもそも、トトロの森さんが音楽療法や児童療育に
携わっていこうと思ったきっかけは何ですか?
(トトロの森)
そうですね…。大学で音楽療法を学んで、
心の勉強がしたいと思いました。
大学4年の時ってインターンに行きますよね?
その時にリハビリテーション病院に行きました。
そこの指導者が臨床心理士でした。音楽だけでなく、患者さんとの心の交流、
信頼関係などを教えて頂き、それでもっと勉強したいと思いました。
大学4年では足りなくて、小学校から高校までは全く勉強しなかったのに、
大学4年間は必死で、すごく楽しくて、自分から勉強して。
―へぇ~。
(トトロの森)
で、まだ足りないな、と思って(笑)
まだ心の勉強をしたくて、臨床心理学で院に進みました。
修士論文が音楽療法だったのですが、療育施設でボランティアを
して、そこでデータを取らせてもらいました。
これがすごく楽しくて、
「仕事は療育」と決めたんです。で、今に至る。
―インターン先で臨床心理士の方との出会いがあるということは、
大学の専攻なり、学科がそういう分野だったんですよね?
(トトロの森)
そうですね。大学は音楽療法の学科です。
―勉強していない高校までの時期があったのに、
その分野に進んだのはなぜですか?
(トトロの森)
ピアノは3歳からずっとやっていたんです。
高三の時、「どうしようかな」と思っていたら、
母が音楽療法という仕事があると教えてくれて、
私の大学受験の頃、音楽療法がテレビとかでも紹介されていました。
2001年くらいかな。
で、受けてみるわ、みたいな。きっかけはそんんな感じでした。
―ピアノをずっとやってきて、音楽が好きで
それに関わることを勉強したいという背景があって
その流れの中で、インターンの時に「出会い」があり、
より深くと。
(トトロの森)
うんうんうん。そうですね。
―先ほど音楽療法のアプローチと効果を
聞かせてもらいました。
今、現場にいて「もっとこうなればいいのに」
と感じていることってありますか?
(トトロの森)
自分の将来のこと?
―でもいいですし、
現場の環境について。
(トトロの森)
今の職場に入ってから
2か月程度なんですよ。
これまでも療育施設で
3~4年のスパンで転職していて
継続したいと思っています。
女性は結婚、出産などライフステージ
で変わると思っていて、そこで辞めてきた
ことがもったいなかったと思っています。
今のところでは10年を目標にして頑張っています。
で、力がついたら、フリーランスで音楽療法を
やっていこうと思っています。
―今は療育の分野で仕事をされていますが、
フリーで音楽療法をやる場合、一般の方も
対象になる?
(トトロの森)
基本的に、障害児を対象にやっていこうと思っています。
―それは音楽療法が発達に難しさがある子供を対象に
体系化されているからですか?
(トトロの森)
いえ、音楽療法士が働く現場は高齢者が多いです。
次に発達障害児でこの二つがメインです。
私は療育がしたくて、臨床心理と音楽療法
でやっていこうと思っています。
ですので、私は障害児と決めています。
―そこまで障害児にこだわるのはどうしてでようか?
(トトロの森)
音楽療法を始めたばかりの時はその効果に懐疑的でした。
資格を取って、仕事してたんですけど、すごく疑っていて、
「これ大丈夫かな?」と思ってました。
でも、院卒業後も勉強を続けて、密度は薄くなりましたが、
今も継続しています。その中で、「効果がある」
と確信するに至っています。
―その効果を実感できて、やりがいを持ってやれるのが
障害児対象ということでそこに集中しようと?
(トトロの森)
そうですね。
―フリーの音楽療法士として、
モデルになるような人
はいたりするんですか?
(トトロの森)
まだいないです。
―先にやっている人はいない?
(トトロの森)
いらっしゃいますけど、まだ自分自身が
そういう人たちと繋がれていないんです。
フリーの音楽療法士は大勢います。
―音楽療法と臨床心理のダブルライセンスの相乗効果は?
(トトロの森)
ありますね。臨床心理士の強みは心の動きを知れることだと思います。
音楽の使い方って療育以外にもリトミックとか
保育とか全部同じことをしてるんですよ。
―ごめんなさい。リト…?
(トトロの森)
リトミック。音楽を使った、模倣ですね。
音楽に合わせて象とか動物の真似をして
身体を動かします。
保育でも昔からお遊戯がありますよね。
で、音楽療法でも童謡など同じ曲を使うんですよ。
それで身体を動かしたり、遊んだり。
やってる事を傍から見たら同じです。
でも、私は音楽だけでなく、なんて言うんでしょう…
音楽を通してその人の心に触れる、心を通わせ合うと
言うとアレなんですけど、そういう深いところに行きたい。
療育に来ているお子さんの保護者は悩んでいることが多いです。
その場合の保護者支援もそうですが、保護者の方が言っていることや
心を理解しようと思ったら、心の動きが要るじゃないですか。
共感したり。あとお子さんなら、やらせるのでなく、一体感を持って
一緒にやり、子どもの成長に感動したり。
こういう心の動きは絶対必要だと思っているので、
いいなと思っています。
質問の答えになってますかね(笑)。
―質問の回答としては少しズレてますね(苦笑)。
でも、おっしゃっていることは何となく分かります。
ただ、人の心の動きって簡単にわかるものですか?
(トトロの森)
全部は分からないし、1回では勿論分かりません。
でも、「こう思ってるんですよ」とか教えてもらう。
何回も話を聞いて、「こういうことですか?」と確認して、
「お互いに頑張りましょう」とか「進んでいきましょう」
とか気持ちが重なって、その人の気持ちが少しわかるみたいな感じですかね。
―メンタルヘルス上課題のある人にカウンセリングをしたり
というご経験は?
(トトロの森)
院の実習や訓練施設ではありました。
私も経験不足のところもあり、分からないことも多いですが、
療育でもそうだけど、クライアントがカウンセリングで
自分の悩みについて話します。
今までこういう生活をしてきて、親とはこういう関係でとか
全部聞きます。その時間はその方の人生においてはホント
一瞬なんだけど、時間をかけて話して、整理していったり。
一瞬ですが、この時間に整理することに意義があります。
長い目で見ればどうなるかは分かりませんが、
整理することで進んでいく力になったり、
カウンセリングの効果はすごいと思います。
―カウンセリングを受けたことがないので、
正直イメージしにくいです。
(トトロの森)
うんうん。
―うつの方とは何人もこれまでに関わる機会があって、
どういう風な感じでやってるのかな、というのがあって。
(トトロの森)
うつになったきっかけは人によって様々です。
ライフステージで、いつ大きな出来事が起こるかは分かりません。
しんどいだろうな、と本当に思います。
―カウンセリングを受けたことのある方から否定も批判もないし、
ただその時間のこちら側の態度を見てると聞いたことがあるんですけど。
(トトロの森)
ほんとにすごいカウンセリング技術のある方なら、
「1を聞いて10を知る」みたいにできる人がいたらいいかもしれないですけど、
臨床心理士ってそんなに分からないですよね。だから態度ですね。
目に見える情報しか分からないし、その人を知る手段として表情や話し方がヒントになる時があります。
その人を批判する、評価するのではなく、その人の心境を知るために
ちょっとでも手掛かりがないか、とということで、態度をみる。
―私自身1回だけピアカウンセラーの方に相談をしたことがあるんですけど、
逆に向こうの話を聞くことになりました。
(トトロの森)
(笑)。そうなんですか!
多分お優しいからですかね(笑)。
相手が聞いてほしくなるのかな。
受け身になるんですか?
―いえ、ただ、向こうが喋ってたら、聴くじゃないですか?
話を遮るのは大人としてどうかと思うし。
(トトロの森)
(笑)。はい。
カウンセリングって受け身の人の方が向いてますよね。
仕事として聞く役にならないといけないんだけど。
なかなか黙るのが難しくてができないところがあって。
―最後に何か言っておきたいことがあればどうぞ。
(トトロの森)
ちょっとずつ進んでいこうと思っていて、
できるだけ長く最後まで療育をやろうと思っています。
―最後までっていうのは、引退するまで?
(トトロの森)
そうそうそう。退職するまで。
それを見守って頂けたらと思っています。
成長できたら、と思います。
―見守るのは周りの皆さん(笑)?
(トトロの森)
そうそうそう。
結構利用者さんに手紙を頂いたりするんですけど、
結婚で辞める時に、
「どこかでまた療育の仕事に就いて」
と書いてくださった保護者の方がいて、
―しゃべる人はこの倍以上喋るけどこの辺で。