「社会問題の解決が必要だ」

そんな号令を聞くたび、「社会問題」とは何かと思う。大抵の場合、号令の後には制度的な問題や統計的データが並ぶ。間違ってないだろうし、本当に解決することが必要だとも思う。でも、同時に抽象的議論となり、知的ゲームに終わっていないかは気をつけたい。それはある種のインナーワークによって乗り越えられることをお伝えしたい。

 

「誰の」「何を」「どのように解決するか」がわからない「社会問題」

僕はCommunity Organizing(以下、CO)という社会運動の手法を学び始めて約5年ほどになる。右も左もわからなかった理論が最近は少しずつ体に染み込んできている。COは戦略でとても具体的な考え方をする。

僕の社会変革に向けた戦略はこの点が欠けている。

問題解決を考えるときに、最初に問題を考えがちである。でも、COの戦略で最初に考えるのはConstituency、日本語では「同志」を特定することから始まる。「同志」とは「課題に直面し、共に立ち上がる人々」のことであり、エンパワーする対象でもある。

この同志を絞り込んでいく時、固有名詞、つまり、特定の個人の名前が出るレベルで絞り込む。油断すると「〇〇で困っている人」とか「〇〇と思っているけど、動き出せない人」みたいな抽象的な設定になってしまうこともあるからだ。

「荒川さんを含む大阪市鶴見区に住み、非正規雇用で働く26才〜39才の若者(そう、僕のことだ)」

このくらいは絞りたい。COの決定的なポイントでもあるけど、変化とは理念や願いではなく具体的なものだ。低所得の労働者の賃金を向上すること、差別を助長する制度を撤廃することなど、本当に問題が解決されることにこだわりがある。

もし、あなたがNPO運営者で、社会課題の解決をしたいと思っているなら、少し胸に手を当てて考えてみてほしい。あなたの団体は「誰の」「何を」「どのように解決するのか」に対して目に見えるほど具体的な答えを持っているだろうか。

これは難しい問いなのではなく、あなたが取り組むテーマを絞り切っているかの問題だ。どの立場にいる人も大事なのはわかる。しかし、同時に全てを解決することは難しい。何かを選ばないといけない。どこに焦点を当てるのかという問題なのだ。

ぜひ一度、具体的に、絞り込んでみてほしい。

 

「社会問題」に血を通わせる

同志が絞り込めたら、今度は問題を特定する。問題は切実かつ具体的なものに絞る。先程の僕の例をなぞらえると、「非正規雇用」「低賃金」「モラトリアム世代」「若者の生きづらさ」みたいなものを「問題」としておきがちだ。

しかし、これらは問題というかテーマであり、具体性がない。重要な質問は「だから何なのか?」を突き詰めていくことだ。非正規雇用だから何なのか。自分の将来にお金をかけられない、今日食べるものがない、住処を追い出されそうなどなど、今そこで困っている人たちの痛みや悲しみ、苦しみが聞こえてきそうなレベルに具体化する。例えばこんな感じ。

「貯金残高がなく、まとまったお金が必要な時に支払えないかもしれないという恐怖が常にある」

非正規雇用と正規雇用の割合で言えば、今、全ての人が正規雇用で雇われることはない。常に一定数の非正規雇用が社会の必要悪のように扱われている。一方で当事者は選んだのは自分で、自己責任だからしょうがないと自分に言い聞かせながら、底をつきかけている残高を受け入れる努力をしている。そんな姿を想像すると胸が痛む。

社会問題について色々な定義があると思うけど、1人のNPO職員としては今日ここにある苦しみを感じられないような問題設定は、テーマでしかなく、問題とは言い難い。もちろん、問題だけでなく、課題やIssueなど、呼び方は色々あるけど、本当に解決したい問題は肌触りのあるものであるべきだと思う。

この問題を特定するときに、問題解決や戦略作りで頭に偏ると現場で起きていることから外れたり、抽象的になりすぎることも少なくない。だからこそ、現場に足を運び、心を使って、そこで暮らす人たちの痛みや苦しみに思いを馳せていくべきだと思う。

この思いを馳せる作業こそがある種のインナーワークである。

そんなことを思いながら、僕はNPO運営者の皆さんを支援している。COについて、最近ようやく、日本語でわかりやすい本が数冊、出はじめた。もし、この記事に関心を持ってくださっていたら、ぜひコミュニティオーガナイジングで検索してみて欲しい。きっとあなたの役に立つと思うから。