<聞き手:島本昌浩>
対談実施日:2020年12月19日@Zoom

おっさんと女子高生
~異色の障害当事者コンビの出会い~

(島本)
宝塚市の障害者週間記念事業で僕が実行委員長
陽さんが副委員長という形でご縁を頂きましたが、
初対面の時ってどんな感じでしたっけ?

(渡辺)
なんだっけ…この事業はこのままではダメだ、
企画段階から当事者が入らないとという意識
をお持ちの方がいて…

(島本)
ああ。それで僕らが引き合わされたんだっけ?

(渡辺)
そうですね。

(島本)
そのお声がけを受けた時って
率直にどう感じられました?

「面白そうだからやってみたいな」だったのか
「面倒だなぁ」という感じだったのか。

(渡辺)

事業の広報のために出演した地元のコミュニティFM公開生放送時の様子 謎の満面の笑みを浮かべる異色コンビ

何かしてみたいというのはあったので、
自分が思っていることを発信できるかもしれない

そういう企画をさせてもらえるかもと
ワクワクして参加しました。

(島本)

確か放送部で番組制作をされていたと思います。
何かをつくるのが好きという素地があった?

(渡辺)

創るのが好きというか、
伝えたいことが多い?
モノづくりというよりは
自分の思っていることを知って欲しい

考えを誰かに伝える機会が欲しいみたいな。

(島本)

で、その考えというのが
特に障害に関することだった?

(渡辺)

そうですね。
自分自身が障害当事者として通学していたなかで
思っていたことを
誰かに伝えられる機会
が欲しいと思っていました。

(島本)

その機会として活用しようと
乗っかった部分はあったんですね?

(渡辺)

なかったとは言いませんが、
それは自分の経験のみに基づく考えだったので、

その経験から学んだことを広げたい、
こういうイベントの企画、運営を経験したい

その辺の自分から発信したいものと
イベントを開催する上での難しさについてのお勉強
のために参加させて頂きました。

(島本)

学びはありましたか?

(渡辺)

いやぁ、なんだろうな。
大人がたくさん集まって、

やはりいろんなところで整合性を保ってやっていかないと
いけないというのは感じましたし、

いろんな考えの人たちが集まっているところで
考えないといけないことがこんなにたくさんあるんだ

というのは経験してみて楽しかったです。

(島本)

最後に感極まるみたいな場面がありましたよね?

(渡辺)

いやぁ、自分でやると言ったものの
あの時期すごく忙しくて。
あれやらないとこれもやらないと
みたいな感じでしたし。

参加している運営陣の中での学生という立場
についての特異性に対して
自分が勝手に感じていたプレッシャーがあって…

(島本)

忙しさと周りは大人ばかりという環境から
解放された安堵感が涙になってあふれた
という感じだったのかな。

(渡辺)

そうですね。
いい経験させてもらったと思います。

二度とやりたくないとかはないですが、
もうちょっとうまくやる方法を考えてやりたい
と思いますし、
しばらくはそういう機会はないかな。

記念事業でのチャレンジ

(島本)

で、そもそもの話に立ち返りますが、
障害があって学校で学ぶ中で
陽さんがやってきたことがあって、

それを記念事業の中で座談会として
僕たちは陽さんにプレゼンテーションをしてもらい、

あの時取り上げたのは、肢体不自由とあと二つ
障害特性なんだったっけ?

(渡辺)

弱視、あと発達ですかね。

(島本)

結構挑戦的な企画でしたよね。
障害特性を3つピックアップして

(渡辺)

そうですね。
障害のある生徒のモデルをつくって、
弱視と言っても具体的な状態まで例に挙げて

実際にいる子として設定。
その子がどんなことに困るだろうか、

それを解決するためにはどうすればいいだろうか

(島本)

白熱したグループワーク

特に学校で学ぶためにということを想定して
グループで考えてもらうという。

ここは多分陽さんがやりたかったことが
反映された部分だと思います。

(渡辺)

そうですね。
で、ポイントは各グループで話し合ってもらう中で
先生役のファシリテーターの方に

途中でコロッと理解のない先生
に変わってもらう役割をしてもらって。

反対された時にどう伝えていくか
反対されても認めてもらうためにはどうすればいいか、

どういう風に言えばいいか
という伝え方を考えてもらったところですね。

(島本)

そういう経験を陽さん自身がされてきたから
実際に他の人がやったらどんな感じになるのかを
知りたかった?

(渡辺)

配慮を求めた時に認めてくれる人
ばかりではないよと。

反対されたから「じゃぁ、いいです」
と引き下がるわけにはいかない
から、
その時にどう言うかを考えて欲しかった。

その意識のフックを参加者の皆さん
それぞれに持ってもらうための企画でした。

(島本)

そういう意図だったのね。
(私は企画をサポートする立場でしたが、
このインタビューで深い意図を初めて知りました…)

プレゼンでは自分の病気のことを
結構オープンにしてましたよね?

(渡辺)

実際に私が配慮を求めていた事例
をそのまま使ったので
病名はしっかり出していた気がします。

宝くじに当たるよりも難しい確率?
~自身の重複障害について~

(島本)

改めてになりますが、
その病気のことを端的に教えてもらえますか?

(渡辺)

一つは、若年性特発性関節炎という
関節リウマチに類似するようなもの

その病気の合併症で線維筋痛症があります。
これが整形外科、膠原病の方で
お世話になっているものです。

あと神経の病気もあって、運動誘発性ジストニア
というけいれんを起こしてしまう病気。

私の場合は、はやい速度で字を書いていたら
けいれんを起こすという症状です。

あと、治ってはいるんですが、ギランバレー症候群
という脱力をしてしまう病気の
後遺障害があって、
脳が体に「動け」と指令を出したら、
右と左で信号が届くスピードが違う
というのがあります。

大きく分けると、膠原病と神経系
二種類の病気があります。

(島本)
サラッと聞いただけでも
すごいオンパレードなんですけど。

(渡辺)

笑 なんか10万人に1人の確率でなるような病気
が重なってるみたいです。

(島本)

すごい確率ですよね。

(渡辺)

宝くじを!私に宝くじを!って感じです。

(島本)

身体にそういう障害があって通学する中で
配慮を求めてきた過去があるんですよね?

(渡辺)

そうですね。

(島本)

あの企画では、合理的配慮をベースにして、
先ほど話してもらったロールプレイングで

「ダメです」と言われた時に配慮をどのように獲得していくか
という話ですよね。

(渡辺)

そうですね。

(島本)

陽さん自身はそれをどのようにやってきたのか教えてください。

障害学生に必要な配慮の一事例

(渡辺)

わたし自身の事例ですね。
私の場合は速いスピードで字を書くと
けいれんを起こしてしまうので、

授業でノートをとるのが遅れてしまったり、
書こうと思うとゆっくりでしか書けないので

気付いたら板書が消されていたり、
テストの時間が足りないということがありました。


ですので、それぞれについて
授業中はタブレットPCを使ってノートをとりたい、

テスト時間の延長を認めて欲しい
という話を学校側にしました。

で、時間延長は紆余曲折ありましたが、
比較的早期に対応して頂けました。


ただ、PCの方はなかなか許可がおりず、
結構大変な思いをしました。

でも、障害福祉課に相談したところ、
「合理的配慮が提供されていないので、

障害者差別解消条例にひっかかってきます」
と教えて頂きました。


で、ういう伝え方もしながら
改めて話し合わせて頂いて、
最終的には許可が下りました。

配慮提供までの紆余曲折

(島本)

条例名を出して根拠を明示したら、
割とすんなり受け入れられた?

(渡辺)

取り付く島もないという感じだったんですけど、
改めて積極的に検討して頂けた感じです。

で、最終的にはOKになったという。

(島本)

検討からOKまでは結構時間がかかった?

(渡辺)

いや、そうでもなかったと思います。

(島本)

最初に配慮を求めた。
でもそれは認められません。
いや、でも条例に根拠があるんですよ
と言ったら、はいOKですと。

変わる前にダメです
と言っていたのはなぜなんでしょうか?

(渡辺)

なんでなんでしょうね。
私はなんで必要なのかという根拠
を伝えていたつもりでした。

「この子には(そういう措置が)必要です」
と書いてある診断書も提出していましたが、
やはり他の生徒や保護者のことが気になるみたいで。

(島本)

つまり、学校側に全員に同じ教育
を提供する必要があり、
一人だけ特別扱いできない
という考えがあった?

(渡辺)

そういうことでしょうね。

(島本)

でも、陽さんのように前提の違う人がいて、
一人一人違う訳だからそれに応じた配慮が必要
だと認められた
ということですよね。

(渡辺)

「合理的配慮の不提供」
になっていますと言って、
前向きに検討してもらえるようになりました。

でも、その後も当時は障害者手帳を持っておらず、
配慮の提供を求める根拠として
手帳を取得してくださいと言われ。


「それは違うでしょう」
と当時は取らなかったんです。
最終的に肢体不自由という記載
がされた福祉的な書面を根拠に
OKになりました。

障害についての自己認識

(島本)

その時にすぐに手帳を申請されなかったのは、
手帳を取得することに抵抗があったんですか?

(渡辺)

んー、そういうことではなくて、
そもそも人に言われて取るものではない
じゃないですか。
自分が必要と思ったタイミングで取りたい
というのもあったし。

(島本)

それ以前から自分が申請すれば取得できる条件
にあるという自覚はあった?

(渡辺)

私の身体で一番大きい病気の
若年性特発性関節炎の診断がおりたのが
学校と配慮のやり取りをしていて
申請をしてくださいと言われた直前で

取れるか取れないかちょっと微妙な時期でした。

基本的に手帳は更新がありますが、
ずっと症状があるものに対して
交付されるじゃないですか。

(島本)

身体障害だと状態が固定しているのが
条件になってきますね。

(渡辺)

私の場合は出る時と出ない時があって、
すごく変動が大きい。
ダメな時は電動車いすで移動するし、
ベッドの上から動けないという日もあります。

でも、元気な時は体育に参加できるくらい
身体を動かすことができます。
これくらい差が大きいんです。

(島本)

う~ん。
それは手帳交付の条件としては多分微妙ですね。

(渡辺)

そうなんですが、今は
エビデンス(根拠資料)をもって
手帳を所持しています。

でも、当時はまだ様々な診断が下りていなかったので、
症状はあるのに病名がつかないみたいな状況でした。

ですので、今申請するのはリスクがある
とも思っていたというのもありますが、
取る時期は自分で決める
という気持ちが強かったです。

(島本)

ということは、「障害者」
になるのに、心理的抵抗
があったという話ではないですね。

(渡辺)

それはないですね。
アイデンティティはすごく微妙なところでした。

障害者になり切れない障害者というか。

(島本)

それってはっきりわかる障害者
になりたいという感じなんですか?
なりたいというのも変だけど苦笑

(渡辺)

なんだろう。
なりたいとも言えないけど、
ハッキリしない気持ち悪さ
みたいなものはありました。

変な感じというのはありました。

(島本)

とはいえ、障害者手帳があることで
制度面での恩恵もあるし。

(渡辺)

そこは合理的配慮のはき違えがあった
というか間違った扱いを受けたと思います。

合理的配慮は本来、手帳の有無と無関係に
受けられるもののはずなのに、
配慮をするから手帳を取ってください
は違うという。

(島本)

合理的配慮は障害者差別解消法
に定められているのであって
手帳の制度とは無関係だから
確かにその言い方には問題がありますね。

(渡辺)

ただ、世間一般の方が
ざっと話を聞いたくらいだと
配慮を受ける人は手帳を持っていると
思われるのではないかと感じています。

(島本)

まぁ、そうかもね。
で、時間延長はスムーズに行った。

授業中の書字についての配慮は
紆余曲折があった。

(渡辺)

でも、最終的には認めて頂いて
先生とも相談しながらノートのとり方を工夫したり

テストも最終的にはPCを使い、
Wordとかで回答させて頂いて。

データを頂いてそれに打ち込んで
その場でプリントアウトして紙の状態で提出する
という感じで
認めていただく等
すごく協力的に対応して頂けましたし、
配慮を求めていた最初の頃の不満はないとは言いませんが、

最終的には一緒に色々考えて頂いて
ありがたかった
と今は思っています。

(島本)

すんなり行ってれば楽だっただろうけど、
そういうやりとりが今の陽さんをつくるうえで
「大切なプロセス」だったと思います。

受験で配慮を受けやすくするためのコツ

(渡辺)

そうですね。
高校で配慮を認めてもらえなかったら、
大学受験もできなかったと思います。

(島本)

そういう折衝をした経験が役立った?

(渡辺)

というよりも、それもあるでしょうが、
基本的に受験時に大学に受験上の配慮を求めるには、

高校でどういう配慮を受けてきたのか
というのが基準になる
んです。

(島本)

前提になる?

(渡辺)

そうですね。
高校までもこういう配慮を受けてきました。
だから大学受験時も同じような配慮を受けたい
と言った方が通りやすい
というか。

(島本)

それは全国の大学受験でそういう運用なのですか?

(渡辺)

そこまでは分かりません。
少なくとも私が受験しようとしていた
大学はそうでした。
ただ、その実績があった方が説得力が増す
というか。

(島本)

まぁ、そうですよね。

(渡辺)

そこでちゃんとこれまでにそういう風にやってきた
というものを出せたのは、
高校で対応して頂けていたからです。
実績づくりができていたのが大きいです。

(島本)

それなしに「お願いします」
と言っても「はい、分かりました」
となるほど現状は甘くない?

(渡辺)

各大学によると思うので、
そこは分かりません。

(島本)

日本全国もっと言えば
世界的にみて言える事かは
勿論わからないですよね。

(渡辺)

積極的に考えてくれる大学であれば、
実績がなくても配慮してくれるかもしれないので

そこははっきりしたことは言えませんけど。

理解されやすいという点では
やはり実績の有無は大きい
ですね。

 

デジタル化により変化する学習現場におけるこれからの配慮

(島本)

でも、先ほど話に出たタブレットやPCを使う
という話は特に2020年はコロナで
オンラインになったり、
教育のデジタル化
というトレンドがある中で、
使うのが当たり前になってきている感があります。

むしろそちらが標準になって陽さんに必要だった配慮
が特別なものでなくなるかもしれないですよね?

(渡辺)

それは十分あり得ると思います。
ただ、これから導入し始める段階だと

一律に指示を出してPCを使ってやらせる形
になってしまうかもしれないとも思います。

PCについても個別の使い方が許容されるような形
になればいいと思っています。

だから全員がPCを使って授業を受ける形態ではなく、
それぞれが自分の勉強しやすいスタイルを選べる
という形が望ましいのではないかと考えています。

(島本)

勿論各自が自分の特性に応じて
カスタマイズできたら理想的ですが、

どうしても教育を集団でやっている以上、
画一性が求められるというのは否めない。

その両立をどう図っていくかが落としどころかなぁ。
今、教育に関心があるんでしょうか?

(渡辺)

教育…ICTを使った勉強の仕方という分野は、
多分他の人がどんどんやると思っているので、

そこまで強い訳ではないです。

(島本)

他の人がどんどんやるから
そうでもないというのはどういうことですか?

(渡辺)

他の人というか全国的に
どんどん推進されると思っています。

(島本)

つまり、私があえてやる分野ではないと?

(渡辺)

他にやりたいことがあるので、
ここは他の人にお任せしようかなと(笑)。

大学で開花した好奇心そして権利擁護への思い

(島本)

進んでいくだろうから
聞こえが悪いかもしれませんが、
自分のリソースはそこには割かない
という感じですね。

(渡辺)

なんだろう。
興味のあることが多すぎて。

(島本)

今関心を持たれていることはどんなことですか?

(渡辺)

権利擁護です。
私がやってきたように自分の学ぶ権利を
PCを使えなかった当時はノートが取れない
とかテストで時間がなくて
解けてたかもしれない問題がとれないとか
そういう学ぶ権利が奪われていた
訳ではないですが、なかった頃があった。

そこで代替手段を使って学ぶ権利を
得てきた経緯があるので
それを子どもたちがちゃんとできるようにするとか
自分に権利があって「方法を変えてやれるなら
それでもいいじゃないか」って
いうやりたいことへのアプローチの仕方
をちゃんと求めていくというか、
なんて言ったらいいんだろうなぁ…。
権利擁護の大前提として
「みんなに間歩ぶ権利があるんだよ、働く権利があるんだよ」
と権利があるということを
理解するための教育というか。

(島本)

今の話を伺っていると、
やはり教育にベクトルが向いている
印象を受けたんですけど。

(渡辺)

そうですねぇ。
向いてるっちゃ向いてるのか(笑)。

そういう意味では、子どもたちに
直接アプローチする気はなくて、
そこの制度づくりというか。

合理的配慮についての正しい認識とか
障害者差別解消法についての正しい認識とか。

(島本)

なるほどね。
いわゆる啓発ですよね。

(渡辺)

啓発をする活動家とかそういうことではなくて。
なんだろう、社会の中でシステムをつくっていく
というか。

システムをつくることで理解してもらうというか。
そういう方向かなと思ってます。

(島本)

システムをつくることで理解してもらう?
もう少し具体的に言うとどういうことですか。

(渡辺)

いやぁ、そこはまだまだですよ。
まだまだ知識不足、勉強不足なので。

(島本)

システムづくりというのは
情報工学的なものではないですよね。

(渡辺)

行政と言ったらいいのかな。
なんて言ったらいいのかな。

(島本)

仕組みですよね?

(渡辺)

そうです。
そういう仕組みづくり。
う~ん、まだぴったりくる言葉
がないんですよね。

なんなんだろうな。

(島本)

例えば、場所をつくってそこを通じて理解が深まる
というようなイメージとも違う?

(渡辺)

ではないです。
この部分の言語化はまだできていません。

大学生になってその部分をしっかり考えようと
最初焦ってたんですけど最近はまだいいかな
という気になってきました。

これまであれをやるためにこれをやる。
例えば大学進学のために勿論勉強するとか
受験上の配慮を受けるために
実績をつくったのもそうですし。
結構固めながらきたつもりなんです。

(島本)

目的を達成するために計画的に行動してきたと。

(渡辺)

でも、今はいい意味で先が見えない状態。
興味のある分野が大学で勉強する中で
どんどん広がってきていて。

(島本)

それは大学進学が一つの目的としてあって、

(渡辺)

大学進学というか、
大学でこの勉強をしたい
というスタンスできていました。

将来ビジョンの模索

(島本)

今はどういう勉強をされてるんですか?

(渡辺)

障害福祉系の勉強をしています。
当事者としてその勉強をするなかで
こういうアプローチもあるのかなとか

ココが足りていないんだな
という制度の勉強もできてるので、
それを踏まえて
既存の制度の中で生かすだけでなく、
新しくつくって障害のある子供たちにアプローチする。


そうザックリ考えている段階で、
言語化するのはまだ先でいいなと。
知識不足の状態でやっても
欠陥だらけなので
いいやっていう(笑)。
今は一旦横に置いといてという感じです。

(島本)

大学という高校より学びが幅広くなるフィールド
に来て、視野が広がったから
そうなってるんでしょうね。

(渡辺)

ある程度やることが決まっている状態で
生きてきたのでなんか生き急いでたんでしょうね。

将来何をやるかを決めた状態で
そこに向かっていくのを
一旦やめようという。

(島本)

そんなにかっちり決めてた?

(渡辺)

かっちりじゃないけど、
ある程度のビジョン、
それこそ「○○大学に行こう」
みたいなのが
高校時代はあるじゃないですか。
そういうものがなくなったというか。
そういう風に将来を
考えることを一旦なくそうと。

(島本)

ただ、○○大学に行って、
将来こういうことをやりたい
というのがあって
進路を選んだ訳ですよね。

(渡辺)

そうです。

(島本)

その大学というプロセスの中に入って
そもそもその先にあったビジョンも同時に消えた?

有識者になりたい?

 

(渡辺)

消えたというよりは、増えた。

(島本)

あぁ。広がったのね。

(渡辺)

これやりたい、
これ必要だな
というのが増えたので

今は無理に一本化しないでおこうと。

(島本)

考える時間は大学生活ではありますからね。
まだ1回生ですもんね。

(渡辺)

1回生だしちょっといいやとは思いました。

(島本)

俗にいうモラトリアムですね。

(渡辺)

あははは。いやぁ…そう、ですね。
なんだろう。
でも組織の中でガチガチにやれるタイプ
ではないと
思っているので今は行政組織に
入るつもりはあまりない。

外からこの国の中核に向けて
意見を積極的に提供できるのは誰?
と考えたら、大学教授とか有識者
になると思うんですよね。

(島本)

有識者になりたい?
そんなこと言ってる人はあまりいないですね。

(渡辺)

大学の先生とかある程度自由がきく位置から
いろんなことに手を出して

色んなところに首を突っ込んでいこう
という気持ちです。

それがやりたいことを達成するには
近いのかなって。
なるまでが大変だし、
なれるのかどうかも分からないけど。

自分探しの季節

(島本)

実現するかどうか分からない将来
に向かって進むのは
若者みんなそうでしょう。

(渡辺)

職業名で将来を考えるのが
すごく難しいと思っていて、

一番近いのはそこかなと思っています。

(島本)

無理して枠にはめる必要はないと思います。
肩書で考えると、多分人が小さくなると思う。
例えば、パティシエとか職人系の理想が
明確にあるなら、
職業名で考えやすいだろうけど。

(渡辺)

でも、ある程度それがあった方が安心感ありません?

(島本)

安心感というか目標が明確だと
日々やるべきことや自分が進む道筋が
ハッキリするから
そういう意味で
迷うことが少ないというのはあるかもしれませんね。

(渡辺)

そうそうそう。
入学当初それがないことに対して
焦っていたところがあったと思います。

(島本)

まぁ、人生何が正解かなんてわからないし。

(渡辺)

いい先輩たちとも出会えて、
一旦クールダウンして知識を習得する時間として

それに専念しようと。

(島本)

その出会いはどういうきっかけで?

(渡辺)

詳しくは言えないんですけど、
自分の興味のある分野の勉強会等があるので

そういう場に誘ってもらってですね。
こういう時間で吸収していくことに
専念しようと。

(島本)

いいですね。


withコロナ時代におけるオンライン化の光と影

(渡辺)

オンラインながら、結構楽しんでます。

(島本)

入学後はやはりずっとオンライン
の感じだったんですか?

(渡辺)

春はずっとそうでしたし、
秋もほとんどでした。

(島本)

今また拡大してるので変わらずかもですが、
対面の講義も戻ってきてはいるんですか?

(渡辺)

体育とあと一つ特殊な講義は対面ですけど、
もう来週くらいで終わって休みに入るので。

1回生というところで新しい人に出会えない
オンラインの辛さはありました。

一人で講義を受けているのでしんどいな
というのはありましたけど、

害当事者の学生の一人としてはありがたかったです。

(島本)

物理的にはバリアフリーやもんね。

(渡辺)

そうです。
うちの大学は結構オンデマンド授業が多かったので、
1,2週間猶予があって、
その後にレポートを出すという感じでした。
その日に絶対出席しないといけない
とスケジュール
決まっていなかったのはありがたかったです。

(島本)

動画ね。
今年大学の非常勤講師をされてる方と知り合って
話を伺っていると、
今年はかなわんとおっしゃってました。

(渡辺)

全国の大学生の中でも多分
そう思っている方が大多数だと思います。

人に会えないことについては
私も悲しいし、しんどい
けど、
新しい生活が短期間で始まるよりは

慣れるためにいろんなことをある程度
ゆっくりやっていけるのは
障害がある身としては
ラッキー
というか
助かりました。

(島本)

今、特にこれに力を入れているというものはない感じ?
幅広く学ぶことに力を入れてる感じ?

(渡辺)

そうですね笑

(島本)

それを得た先に何が見えるかはまだ分からないけど、
漠然と将来は権利を守っていくようなことを
していきたいと。

(渡辺)

みんな権利擁護していいんだよ、
と伝えていく何か。
セルフアドボカシー

(島本)

権利擁護していいんだよ?

(渡辺)

自分の権利守っていいんだよと。
なかなか甘くないですね。

(島本)

福祉畑の人っぽくなってますね。

(渡辺)

でも、そうなんですよね。
資格も取るつもりではいますし。

(島本)

社会福祉士とかですか?

(渡辺)

そこは堅実に取る̻資格かな。

(島本)

権利擁護と言っても、
色んなアプローチがあって、

学部の方向性が違うでしょうが、
法律的な面から弁護士とかは

ストレートなところだし。

(渡辺)

福祉のフィールドで障害に関する法律などについて
考えていく感じで
やっていけたらいいなと思ってます。

(島本)

あえて法律についてという部分を言うところに、
制度についての関心が出てる
と感じます。

(渡辺)

そうなりますね。
今見直しがされてますけど、
障害者差別解消法の合理的配慮
についても
法的義務と努力義務の違い
があったり、「なんでやねん!」
という感じ。

誰かが変えてくれるなら
早いですけど。
そうなったら
私はまた別のことするので。

(島本)

でも本当に自分が変えようと思うなら
政治家になるしかないけどね。

(渡辺)

そこはまた違うんだよな。
自分の知的探求心と
やりたいことを両立できる
ポジション
を探っていくというか。
まぁ、こんな感じであまり決め過ぎないように
生活しようと思ってます。

(島本)

体調に波はありながらも
基本的にオンラインでのびのびやれているようですね。

(渡辺)

はい。
でも、これコロナが収束しても
全部対面には戻して欲しくないです。
私の場合対面授業でも調子が悪い時はZoomなり
こういう形でつないで対面授業の様子を見られるとか。

(島本)

全ての講義をアーカイブとして残して
オンデマンドで見られるようにするとかね。

(渡辺)

そうですね。
大学に登校できないというバリアがある時は、
リアルタイムでオンラインで
授業が受けられる形も
受け方の一つとして残って欲しいなと思います。

(島本)

学校はちょっと分からないけど、
ビジネスの現場は元に戻れないと思う。

(渡辺)

そうですね。
でも大学も戻らないかなとも思うんです。

今実績はできてる訳で。

(島本)

完全オンラインの時期は
対面できなかったじゃない?

対面でしか得られないものってあると思います?

(渡辺)

どうでしょう。う~ん。
人間関係は対面でしかできないじゃないですか。

「初めまして」の段階の関係づくりは
やっぱり対面が強いと思います。

(島本)

更に関係を深めていくために対面は不要?

(渡辺)

う~ん。

(島本)

僕はその説とは逆の立場ですね。
最初は画面越しでもなんとかなるけど、
より深くなるにはその人の空気感が
分からないと厳しいと思う。

(渡辺)

これ授業とか学校の話じゃなくてですか?
全部含めた一般論だと
別かもしれませんが、
学生とか生徒とかなら別にいいかなと思います。

(島本)

学ぶ分野が特に実験したり、
モノ作ったりという感じでなければね。

(渡辺)

対面授業の場でコミュニケーションとらなくても
別に個人、個人で会えるし。

(島本)

集団で大教室に集まってというのは
確かに時代に合わない気はしますね。

(渡辺)

最初に顔合わせで集まるのは必要かなと思うけど。
気になる人に自由に声を掛けられる機会?

(島本)

気になる人に自由に声をかける?(笑)

(渡辺)

変ですか?(笑)

(島本)

あまり声かけなさそうと思って(笑)

(渡辺)

あぁ。いや。でもそうかなぁ。
そうだったかもしれないなぁ。

(島本)

どっちかというと陰キャラでしょ?

「陰キャラ(陰キャ)」
goo国語辞書より

《「陰気なキャラクター」の意》引っ込み思案内気な人。陰キャラ。陽 (よう) キャ

福祉を究める変態?

(渡辺)

陰キャはありますけど、アレですよ。
今私この福祉系の分野で変態に近いとこまで
行きたいと思ってて。

(島本)

なんだそれ?爆笑
どういうことですか?

(渡辺)

笑。なんて言ったらいいんでしょう。
そのことをずっと考えてるような人というか。
そのことを考えるのが楽しい?
その域に達するくらい

(島本)

それは変態ではない笑。
それを究める人になりたい?

(渡辺)

そうですね。
そういう意味での変態になりたいと思ってて。

(島本)

大丈夫です。
それは「変態」ではないです。

(渡辺)

笑。でも、そういう意味では
皆がココで何を勉強したいのかとか
近いことを話せる人を欲している感じがあって。

(島本)

ちなみに、大学で周りに障害当事者はいるんですか?

(渡辺)

います、います。

(島本)

割合的には?統計上の障害者比率と同じ感じですか?

(渡辺)

同学年では、私を含めて2人は把握していますね。
支援を求めている人数として2人です。

(島本)

障害当事者として福祉分野の勉強をするなら、
結構周りから重宝されるんじゃないですか?

(渡辺)

そうでもないですよ。

激論~障害当事者として配慮をどう考えるか

 

以前掲載した23歳の青年との対談でもそうだったのですが、
私は若者と語り合うと熱くなるところがあるようです。
こういう議論はどちらが正しいというのはないですが、
読者の方が異なる考えを知ることができるので
良いのではないかと思っています。

(島本)

それ福祉分野を目指してる人にとって
機会損失が発生してる気がする。

(渡辺)

いや、でもそれをされたら正直
こちらとしては腹が立つかもしれないです。

(島本)

そこは変態なら、
事例提供すればいいんじゃないの?

(渡辺)

事例提供というか
意識的にそれをされたくないというか


う~ん、難しいな。
ヘルプを出したら助けてもらえるという関係
でありたいと思っています。

(島本)

過剰な配慮はされたくないということね。

(渡辺)

そうです。
助けを求められた時に助けるという意識
を持って欲しい
と一当事者としては思っています。

(島本)

うん、それは健全な話ですね。

(渡辺)

自然な対応を求めたいし、
そういう風にしてくれていると思います。

(島本)

そういう意識が育つように自分から
積極的にサインを出すことはしますか?

(渡辺)

積極的にサインを出すというか
できないことはできないので

お願いします。
その機会を積極的に作ろうとは思わないです。

(島本)

あ、そうなんや。

(渡辺)

それは話が違ってくる。
一人の学生として4年間学生生活を対等に送りたい
人たちなので

言わなくても助けてくれる関係は
対等じゃないじゃないですか。

機会をつくってあげようというスタンスがあると。

(島本)

記念事業が終わった後の春から
僕は障害者ばかりの職業訓練校に8ヶ月通い

その後2年障害者ばかりの部署で2年以上働いています。
みんな障害特性が違うので
僕が体を使ってできないことが
どういう感じでできないかが
周りの人には分からないから

そこについては説明が必要
という当事者意識
を持っています。
知ってた方が周りも困らないので
積極的に言う感じですね。

(渡辺)

私の考えですけど、
どうせ困ってる事は一人一人違うので、

ここで私という当事者がいたことで
ステレオタイプができてしまっても困る
なという。

(島本)

一つの事例を知っているかどうか、
あとヘルプの成功体験があるかどうかが大きい
と思っていて、
電車で席譲ったけど断られて
気まずくなるよりは、
快く座ってくれて、「また隻譲ろう」
みたいに
に思う人が増えたらいいなというか。

(渡辺)

ココは私たちの考え方の相違ですね(きっぱり)
一人一人が必要な時に言って行けばいいと思ってます。
同じ病気でもあの人と私は違う
そこでできることまでされたら嫌なので。

れることは自分でやりたい
というのがあるので。
勿論言い方は気をつけますけど。

(島本)

僕はそこまで言っちゃう。
僕の場合はこうですけど、
同じ障害でも人によって違うのでとか。

(渡辺)

そこは私はこうだというのを
時間を共にする中でわかってもらえればいいかな
というか。

周りの人には頼まれたことだけやるスタンス
でいて欲しいと私は思っています。

できないことはできないと伝える務めが
こちらにはあって、
頼むのはこちら側の責任
だと思うんです。

(島本)

僕の場合は仕事上の場面が多いので
こういう風に思ってるのかもしれない。

(渡辺)

でも、最初にある程度ザッとは言いますけどね。
これとこれとこれは苦手なのでお願いします
みたいに。

ただ、場面ごとに伝えることが今は多いですね。
「書けないから書いてぇ」
みたいな感じで過ごしてます。

(島本)

高校生の時も自己主張はしっかりするタイプでしたが、
以前よりハッキリ分かりやすいというか…

(渡辺)

きつくなってます?笑

(島本)

いや、前からきつかった笑
言語化ができてないという話があったけど、
以前よりボキャブラリーが
格段に豊かになったなと

対話してて感じました。

(渡辺)

笑。ちょっとだけでも成長してた。

(島本)

最後に渡辺陽として、
これは伝えときたい
ということがあればどうぞ。

(渡辺)

う~ん。伝えたい?なんだろう?
学に来られて幸せだなということくらいかな。

(島本)

いい締めくくりの言葉。

(渡辺)

あの時高校で配慮を受けられていなかったら
受験できてないし、
勿論受験できなければ入学できてない。

受けられて良かったな。
入学できて良かったな。

今勉強できてて幸せだな
というのはすごく感じてます

多分障害学生の中にはこんな風に思う人も
少なくないんじゃないかなとは思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者プロフィール

島本 昌浩
島本 昌浩
バリアフリーチャレンジ!代表
challenged-view編集長