「わたしにも友だちができるといいな
~あるASD(自閉スペクトラム症)女性からのお悩み相談~」
宝塚発達心理ラボ図書②の出版を終えて

大隅 順子

今この文章を書いているのは、編集長の島本さんに宝塚発達心理ラボ図書2冊目の出版について振り返る機会を与えて頂いたからです。

長い間バリアフリーチャレンジでのライター活動が休眠状態であったにもかかわらず、執筆へのお声をかけてくださったことを大変嬉しく思っています。

以前にも書いたのですが、私はバリアフリーチャレンジのライターをする以前から、「大人のひきこもり女子会 in宝塚」という活動を仲間たちと続けています。

「ひきこもり女子会」というのは、ひきこもり状態にある方、対人関係の難しさを感じている方など、様々な生きづらさを抱えている女性の当事者会のようなものです。

ここにファシリテーターとして宝塚発達心理ラボの女性スタッフたちが入っています。

https://www.takarazuka-lab.org/

その5年間の活動を振り返った書籍「ゆるくつながり元気になろう 生きづらさを抱える女性たちへ」の読者の方から、ある一通のメールを頂きました。

そのメールがきっかけとなって今回の続編につながったという流れになります。

https://www.amazon.co.jp/dp/B08X79WF28

https://www.amazon.co.jp/dp/B096NSG95X

頂いたメールは長文で内容も濃く、今までの思いが凝縮されているように感じました。

その内容を要約すると「友だちができないことがつらかった。発達障害である私に向けて友だち作りについての応援本を書いてほしい」というものでした。

この方は社会人女性で凛子さん(仮称)とおっしゃいました。

本人から匿名でなら公表してもかまわないと言って頂いたのでこのまま続けます。

凛子さんは、高校時代に医師から発達障害(ASD:自閉スペクトラム症)の診断を受けたそうですが、この診断名は家族とごく一部の人にしか明かさず、いわゆる一般的な学生として過ごされました。

凛子さんのお悩みは「いつも一人ぼっちで友だちができないこと」でした。

友だちがいなかったので学校に行くのはつらかった…ということが書かれてありました。

凛子さんは

★「これからの人生を幸せなものにしたい」
★「自分(の特性)についてもっと知っておきたい」
★「友だちと言える人がほしい」

という願いを強く持っておられました。

私は20代後半から過去17年間ほど高等学校で働いていました。

その高校での勤務時代にいつも気になっていたのは、毎年決まって出会う「集団にうまくなじめない生徒」の存在でした。

特に女子は4月当初にいずれかの仲良しグループに入り損ねてしまうと、その後はなかなか仲間に入りづらそうな印象がありました。

そういう女子同士の微妙な人間関係の中、不本意ながらひとりで過ごさざるを得ない生徒が毎年クラスにいました。

もちろんひとりでも平気だったり、ひとりが気にならないという生徒もいます。

問題は裏庭でこっそり食べたりトイレで食べたり、ちゃんとお弁当を持ってきているのにもかかわらず、一人で食べる姿をクラスメイトに見られたくないために、あえて食べずに図書館で過ごしている生徒たちの存在でした。

 

ひとりぼっちのランチタイムがつらくて肩を震わせて泣いている生徒と、空き教室で一緒に昼食を食べたこともあります。

空き教室のカーテンを閉めてひとり用の食事の空間を用意したこともあります。

孤独な昼食など放っておけばいいという先生もいらっしゃいましたが、私は高校生にとっては、たかがランチタイムされどランチタイムなのだという思いを持っていました。

今回ご縁があって、友だちが欲しいと願う凛子さんからご相談を受けたとき、そんな昔の記憶が走馬灯のように思い出されました。

そして今もうまく学校になじめず人知れずつらい思いをしている生徒がいるのだろうなとも思いました。

仕事がきつく時間的に余裕のない毎日だったのですが、

凛子さんからの相談を通して、特にASD(自閉スペクトラム症)の方の自己分析、仲間作りやコミュニティ作りから居心地のいい環境について

書きあげて世に出そうと決意しました。

余談ですが、高校時代に泣きながらひとりでお弁当を食べていたその女子生徒は、卒業後短大に進学し、念願の幼稚園教諭になりました。

卒業後その女子生徒が学校に遊びに来てくれました。

「先生、わたしあこがれの幼稚園の先生になれましたよ!毎日頑張っています。私どうしてもクラスにひとりぼっちの子がいないかつい気になるんです。寂しくしている子がいれば笑顔で話しかけています。」

と報告しに来てくれました。

彼女のような先生が担任の子どもは本当にしあわせだと思います。

私は当時高校生だった彼女に特に何かをしたわけではなく、一緒にお昼を食べたり、ひとりの食事用に空き教室を提供したくらいです。

そんな些細なことでも、友だちができずに学校を辞めることまで考えていた彼女にとっては、苦痛のランチタイムが楽しい時間になってとてもありがたかったのだそうです。

今回凛子さんの事例を通して、特にASD(自閉スペクトラム症)の友だち作りについて書きました。

学校現場は色々な制約もありなかなか理想通りにはいきませんが、同じような思いを持って、集団になじめない生徒に寄り添おうとしている先生方もたくさんいらっしゃるのがありがたいです。

私の学校には校内に「居場所カフェ」を立ち上げたり、高校での通級指導に一生懸命取り組んでいらっしゃる先生もいらっしゃいます。

同じ方向を向いて生徒を支えられる人が身近にいることは本当に心強い限りです。

友だちを作ることが上手ではない子たちに心を許せる友だちができますように!

宝塚発達心理ラボ図書シリーズはこれからも書物を通じて社会に学びを還元していきます。


https://www.takarazuka-lab.org/

長文にお付き合いくださりありがとうございました。

バリアフリーチャレンジの活動はもちろん、これからも自分たちのできることを見つけて地域支援を続けていきたいと願っています。