私自身は聴覚障がい者であり、耳から情報が十分に入らないために生じている「情報格差」にずっと悩まされてきました。
例えば、後ろで同僚がささやいている「今度、Sさんが、異動でこちらの部署に来るんだって。なんでも体制強化のためらしい。」というようなちょっとした会話。
こういう小さな情報が積もりに積もって、仕事を進める上の、また、生活をする上での貴重な情報となってきます。
こういった情報の「リアルタイム性の欠如」により「不確実性と常に背中合わせ」の私にとって「情報格差」は生涯の一大テーマです。
その延長で、今回は、社会で一般的に存在している「格差」について取り上げてみたい。
格差が生じる根源とは?
この世の中には格差と呼ばれているものがたくさん存在しています。
「経済格差」、「教育格差」、「情報格差」、「健康格差」など、枚挙にいとまがありません。
資本主義である日本には競争原理が基本的にあり、格差を生じる根源となっている。もちろんそれだけではないが、大きな根源は、競争原理でしょう。
WikiPediaには「競争原理」についてこのような説明が書かれています。
競争原理(きょうそうげんり)とは、資源配分の効率性の概念である。 これは、個人や集団に必要とする資源が限定されているならば、それを獲得するために競争を行って優位(高生産性)の者がそれを獲得できる、とする考え方である。 社会がこの方法で運営されて行くならば、その成功者こそがより良い地位や財産を得られる。 以上は資本主義の基本原理の一つでもある。
自助努力だけで社会が成り立つか?
基本的に自助努力によって資源(生活に必要なもの)を獲得していくという考え方が世の中には蔓延っています。
もちろん、最低限、自分でできることをするための努力は必要でしょう。
しかし、自助努力だけで社会が成り立つかというとそうではありません。
災害や病気など、何かあった時のために互いに助け合う互助・共助という考え方がとても大事であるのは言うまでもない。
また、今は健常者であっても、何らかの事故や病気になって、あっという間に障がい者になってしまうこともあり得ます。つまり、明日は我が身です。
今の日本では、障がい者は、965万人(令和2年 内閣府発表)もいると言われている。つまり、国民の13人に1人(7.7%)が障がい者なのです。
「逃げ恥」に見る自助努力の限界
大ヒットドラマのスペシャル版「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」(TBS系)が1月2日に放送され、その中で、こんなシーンがありました。
妻みくりが妊娠したため、1か月の育休を取得しようとしている平匡に上司の灰原は、不満がある様子でした。
それに対して、元上司で独立した沼田は、
「いつ誰が長い休みを取るかなんてわからない。働いてるのは人間なんだから。その時何が大事かって言ったら、誰が休んでも仕事が回る、帰ってこられる環境を普段から作っておくこと。それが職場におけるリスク管理。」
と拍手喝采の名言をさらりと行ってのけました。
こういった性別で役割を限定したり、ひとりの人間に役割を固定したりというような働き方を限定する風潮はまだまだあるのですが、ライフステージの多様化、働き方の多様化に注目が集まっている現代では、意識改革が必要になってきています。
育児などのライフステージの変化を自分でなんとかするといった自分ですべてを抱え込む自助から、チームや会社や行政が支え合う共助・公助への転換が今こそ求められているのではないでしょうか。もちろん、自分でいざという時のために引継が出来る様に普段から意識・準備しておくといった自助も必要だけど、それだけでは不十分で、組織ぐるみの対応などの共助・公助が今まさに求められています。
そのような訳で、互助・共助は社会としても必要不可欠なモノです。
コロナ禍でハッキリしてきた本当に必要なモノ
ちなみに、WikiPediaには「資源」についてこのような説明が書かれています。
資源は、人間の生活や産業等の諸活動の為に利用可能なものをいう。
広義には人間が利用可能な領域全てであり、狭義には諸活動に利用される原材料である。
基本的にはモノやカネといった生活で必要な「物質的」資源のことですが、果たしてそれだけで十分でしょうか。
コロナ禍で多くの人たちが生活様式の変化を強いられており、これまでの当たり前が当たり前でなくなった現在、今まで以上に人と人のつながりが求められてきている。
社会には「物質的資源」だけでなく、「人と人のつながり」のような「精神的・心理的資源」が必要ではないか。
現代は、ダイバーシティ(多様性)がようやく認識されつつあり、障害者、LGBTQなどのマイノリティを含めて、お互いに尊重し合うことで、「精神的・心理的資源」が満たされ、豊かな社会になっていくのではないでしょうか。
また、互助・共助がないと、特に「精神的・心理的資源」が満たされず、「精神的・心理的」に貧しい社会になっていくのではないか。
“世界でいちばん貧しい大統領”が訴えた本当の豊かさとは?
2010年から5年間、南米の小国ウルグアイの大統領を務めた第40代ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカは、質素な暮らしを続けたことから、“世界でいちばん貧しい大統領”と呼ばれています。
ホセ・ムヒカ氏は、「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と、国連でスピーチをされました。
彼は、現代の消費の上で成り立っている社会を批判しています。「消費で成り立つ社会には格差が生じ、社会的不公平が発生してしまう」からです。
そんなわけで、「自助努力」だけでなく、「互助・共助」も大切です。
皆さまが共に歩み寄ることの大切さを認識され、実際に行動していくことで社会がより豊かになっていくことを心から願っています。
(文責:伊藤 芳浩)
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