売る側は、使いやすい商品を提供することで買う側を助ける。一方で、買う側は、買うことで、作る側の工賃アップに貢献でき、作る側が新しいことを学び、スキルを身に付ける機会を提供する。そんな商品を作りたい!
理学療法士としての経験を生かして、年齢や障害の有無に関わらずオシャレを楽しんでもらいたいと
ご自身でブランドpescafiore(ペスカフィオーレ)を立ち上げた内谷桃子さん。
今回のインタビューは、内谷さんのユニークな活動を知って頂くために行いました。
職業人生の最初から「これが天職だ」と思えなくても不思議ではありませんが、
そもそも「絶対にこの仕事をしたい!」ということではなく、リハビリ専門職である理学療法士(PT:physical therapist)
になったという彼女がなぜオシャレな服や小物などをデザインし、製作することになったのか。
理学療法士として働く中で内谷さんは、なかなかやり甲斐を見出せない時期があったと言います。
内谷:自分の感情が落ち込んでいる時に、訪問リハに行かなくてはならず、
引きこもった生活をされている高齢者が自分と重なることがありました。
少しでも日々、前向きになれるようなことを見つけないと、
という思いがありました。
ファッションの力で心ときめく素敵で楽しい毎日を
まだ在学時にこのまま進んでいいものか先生に相談した時のことを思い出し、
転機が到来します。
PTで1級建築士の資格も取って、バリアフリーの家を設計している方がいる
という先生の話のなかで、「あなたがファッションを好きなら、
そういうことを提案できるPTになってはどうか」というアドバイスをもらったそうです。
島本:リハビリの中で特に女性高齢者がオシャレに敏感だと気付いたのですか?
内谷:生活リハビリの中で、着替えを嫌がる方はたくさんいらっしゃいます。
でも、オシャレが絡むとやる気になってくれ、「更衣動作」につながるので実践的です。
私が仕事をするには、相手の自発性を引き出さないとどうにもならないので色々投げかけます。
中でも女性はオシャレ系の引きが強いです。
そういう経験をして、
PTとして何をしたいのか、を考えた時に、確信が生まれました。
リハビリテーションは、「人間らしく生きる権利の回復」が重要です。
それに、自分の好きなファッションには、単に着飾ることでなく、
「自己実現」や「尊厳の維持」といった要素もあるので、
「ファッションを通したリハビリテーションの実現」
ということに、繋がりました。
pescafiore(ペスカフィオーレ)
「 障害があったり、要介護の状態でもポジティブになれるように」と
着心地が良いことなどの機能性に加えて、楽しくなるような色や柄の服などを
生活に取り入れることを提案しようと、デザインから製作、
そしてその価値を伝えていくことまで内谷さんはご自身で
「Pescafiore(ペスカフィオーレ)」と言う事業(ブランド)を
立ち上げて実践されています。
障害者事業所とのコラボ商品の販売
内谷さんは、どのように製作していこうか、と模索している時に、
偶然テレビで障害者の事業所が縫製の作業をしていることを知ります。
すぐに近くの施設をネットで探し、ある生活介護施設に依頼することで
一つの方向性を見出します。
つまり、PTとして在宅リハをする中で自分が気付く
「こんなものがあればな」というニーズを自身でデザインして、形にする。
それを基に事業所に作業の提案をするという一連の流れ。
このコラボで、利用者の意欲が向上し、意識と行動に変化があり、
自主製品のみならず、外部の人と企画するのが刺激になる、という反応があり、やりがいを感じたそうです。
このようなコラボができる事業所には自閉症などの発達障害の方が多いとのこと。
内谷:事業所とのコラボの仕方は、デザインを元に方向性を示して、
私が主導しています。間に事業所の職員の方が入って、
「こういう風に」ということで利用者さんの実際の作業に
落とし込んで頂いています。
利用者の皆さんは基本的に作品についてのアイデアや意見
まではおっしゃらず、教えられた通りに粛々と作業されています。
内谷さんの独自性
内谷さんの事業がユニークなのは、前述の製作工程だけでなく、
ご自身の理学療法士としての強みを活かして、ハビリの要素を取り入れた
理念を掲げている点。
理想として自立支援や介護予防まで視野に入れています。
内谷:理学療法を生かせるお店(人が集まる場)をこれから作っていきたいです。
介護保険の要支援サービスの制度変更に合わせて、地域に根差して実店舗で物販だけでなく、運動やリハビリのニーズを持つ人に来て頂く。
そのようにして、運動と物販を組み合わせた場を作れないかと考えています。
していきたいこと
下記のようなことをされたいと明確にリスト化されていて、3.までは既に実現されています。
フワッとした感じの人というのが私の内谷さんの印象ですが、
「やることはキチンとやる芯の強さ」はお持ちです。
- 着やすくてオシャレな服をデザインして売る
- 高齢者・障害者のファッションショーをする
- 高齢者向けのオシャレ講座をする
- 使いやすくてかわいい医療・介護グッズを作って売る
- 高齢者・障害者の社会参加を促すイベントをする
今後は商品ラインナップ、活動内容の幅を広げて「ファッションを通したリハビリ」を更に発信していきたい。
島本:「互助の関係」ということをおっしゃっていますが、活動の核になる思いだと感じます。
この内容について具体的に教えて頂けますか?
内谷:作る側と買う側の関係で、作る側は
使いやすい商品を提供して買う側を助ける。
一方で、買う側は、買うことで、作る側の工賃アップに貢献する。
また、作る側が新しいことを学び、スキルを身に付ける機会を提供する。
そういう支え合いです。