ついにいよいよの時がきている。
11月の抗がん剤終了後、副作用が明けても吐き気が治らず…。

病院に行くとそのまま入院となった。
腹膜播種というお腹にがん細胞が散らばっている状態で、
腸にびっしりと着いたがん細胞により腸がほぼ動かなくなっていた。

入院中は絶飲食で鼻から胃まで管をいれ、
腸のほうに流れていかないものを吸い出し、
腸を動かす薬で治療していった。

医師から言われたことは「もうこれ以上抗がん剤の治療はできない。」と。

「口から食べることはできない。」と
「在宅医療か緩和ケア病棟になる。」と。

覚悟はしているつもりなので普段、何があっても涙は出ないはずなのに
スーッと涙がながれた。
しかし驚異の回復力でお薬の力によって腸が動き出し、
入院中は自分でコインランドリーを利用したり、
シャワーに入ったりすることができるまでになり、
鼻の管も抜けて退院することができた。
しかも1週間後には今までと違う抗がん剤を試すことも決まった。
新たな治療ができると思うと何となく明るい気持ちだった。

家に帰ってからも柔らかいものを食べることは許可されていて、
食べられる幸せをかみしめ、もう少しだけ、あともう一回だけ、
家族で出かけられる元気な姿になれることに希望を抱き、抗がん剤治療をした。

が、やっぱりダメだった。
悲しい事に腸の動きは弱かった。
吐き気が止まらずまたまた緊急入院となった。
絶飲食で鼻からチューブを入れられ、
腸を動かす薬を入れても腸は元気に動かなかった。
そして胸膜に転移した胸水が溜まるスピードも速まり…。

結果的に酸素に繋がれ、
鼻から胃までチューブに繋がれ、これ以上は抗がん剤治療もできず、
在宅医療の道に進むこととなった。

そして「貴族」となったのだ。

これから、一生何も食べられないことの絶望がどんなものか!
どうしても味を感じたい。

「口に入れて、味だけ感じてペッて出せばいいよ。昔の貴族みたいに。」
って旦那が半笑いで言った。
冗談だと思っていた。
そんなことできるわけがない。
恥ずかしさなのか、常識の範囲から外れているからだろうか?
聞いた時にはまさか!と思った。
でもやっぱり食欲には勝てない
今は平気でやっている。
自宅に帰ってからは「嘔吐バック」ならぬ「王都バック」
と呼ぶ自立式のおしゃれなチャック袋が用意されていた。

昨日自宅に帰ったのだが、
在宅医療もまるで「貴族」。
病院ではコロナ禍の影響もありzoomで私のための会議が行われた。
病院から自宅までは介護タクシー。
リクライニングと枕のついたゆったりとしたふわふわの車いすに乗ったまま
タクシーに乗り込み、一段高いところからのんびりと帰宅、

その後は私のために全員集合!
往診の先生2人、看護師2人、ケアマネージャー1人、
娘の不安軽減のための計画相談員1人、
福祉用具の担当者1人、トータル7人+旦那&娘。

「あなたのために何の不安もなく過ごせるために私たちがいます。
我慢しないでわがままになってください。」と。
こんなこと人生で一度もない。
どうしていいか分からず…。
「年末年始もお休みないですよね。」
と、思わずみんなの事を心配してしまう私。
みんな大笑い。
「皆さん一人一人に家庭もあるのに…!もうお給料3倍!」
と言ってまた大爆笑。

旦那は冷静で「そういうのをエッセンシャルワーカーっていうんだよ。」
と諭されました。コロナ禍で注目を浴びた言葉
「エッセンシャルワーカー」知っている。
どの人を見ても一生懸命で、でもやっぱり目が赤かったり、残業してるんだろうな、
というのが伝わってくる様子。
気力も体力も使い放題の仕事だし、感謝してもしきれない。
もうほんとにこの言葉以外何が見つかるだろうか。

この際、皆さんが言ってくれている通り、
「わがまま」になって「貴族」になって、過ごしていこうと思っている。

今まではやっぱり「言葉」で人間関係を失敗した記憶が大きく、
なるべくしゃべるときの言葉に気を付けていた。

今は思ったことは何でも言う事にしている。
以前は飲み物を買ってもらって、口に合わなくても
買ってきた人に悪いから「美味しい」と言っていたし、
常に旦那だろうが娘だろうが気を遣っていた。
もう全て止めて素直に生きてみよう。今更、遅い?
この際、遅いも早いもないか。思った時がやり時!
「貴族」で最後まで突き進んでいこうと思う。

さてさて、もしこのエッセイが突然終わることになったら…。

あと数回書けるか分からないが…。
もう少ししたら「死ぬ意味」とか考えだすだろうか?

そんなことを考えていたら旦那が横で、
「ローマ貴族」の壺に吐く話を始めている。

本当に面白い人だ。
こんな調子だといつまでたっても「死ぬ意味」とか考えられそうもない。

そうやって、ネタいっぱいで過ごしていく毎日。

在宅医療、万歳‼‼

2022.12.17

 

 

投稿者プロフィール

大西紀子
大西紀子
知的障害&自閉症の娘を持つ母
卵巣がんと共存人生
手話通訳士に憧れる井戸端手話の住人
専業主婦天然枠代表