今回のテーマは、【子どもが歌をどのように受け取っているか】
普段発話が無い重度の障害のある子どもが、
突然
歌いだすことがあります。
何故でしょうか。

2歳の子どもだったり、18歳の青年だったり、
年齢は様々ですが、
どんなに名前を呼んでも返事はないし、
呼びかけに反応もしない。

でも、ある日突然歌の1フレーズを歌い始めるのです。
れは私が歌っていた歌の場合もあるし、
幼稚園や保育園で覚えた歌の場合もあります。

小さい子であれば、そのまま言葉が出てきて、
2語文で話始めることもありました。

今まで「あ」や「う」の発声だけだったり、
発声自体がほとんどなかったりする子どもたちなので、とても驚きます。

子どもたちがどのように歌を知覚し、感じ、受容しているかについて、

この記事では、【情動調律】に焦点をあててみます。

子どもたちが歌や音楽を知覚し、
やがて表出に至るまでの回路を探ってみましょう。

 

 

 

【情動調律】

普通、耳に届いた情報は“快”と“不快”のどちらかに選別されると思いますが、
大人の歌いかけが“快”として受け入れられた場合、
子どもたちの記憶に残ります。

日常の場面を例に出しましょう。

ベビーベッドで赤ちゃんが泣いています。
①赤ちゃんの情動 【不快】

台所で料理をしていた母親はその泣き声を聞いて、
赤ちゃんのもとへ駆け寄り、
“どうしたのか”と探りながら、
きっと赤ちゃんの身体を抱きあげて優しく揺らすでしょう。
①母親の情動 【心配】

赤ちゃんは母親に抱き抱えらえると、
腕のフィット感や、母親の匂い、声、に泣き止み
母親の抱っこの揺れに再び微睡むかもしれません。
②赤ちゃんの情動 【安心】

ちゃんが大事なく、泣いていただけだ
と理解した母親は、「大丈夫?怪我ではなくてよかったね」といいながら、

赤ちゃんの頬っぺたをムニムニ揉んだり、
わざと揺れを大きくしたり、高い高いをしたり、
あやしはじめるでしょう。
②母親の情動 【安心】

そのあやしが赤ちゃんにとっては快の刺激となり、
赤ちゃんはにこにこと笑い始めます。
③赤ちゃんの情動 【快】

こで母親と赤ちゃんの情動の交流が始まり、
赤ちゃんから「あー」や「きゃー」など声が出始めるのです。

そして、母親は赤ちゃんを見て笑顔になるのです。③母親の情動 【快】

 

             

 

※情動調律 1995年「乳幼児の対人世界」を発表したスターンが提唱た概念です。
スターンによると、母親と乳児のかかわりあいの中で重要な役割を果たすのが
情動調律affect attunmentです。

スターンは、情動の伝達の情報を喜怒哀楽などのカテゴリカルな情報と
抑揚、強さ、形などの連続的な時間の流れに沿って変化する勾配情報にわけ、
この勾配情報により生起する情動を生起情動と呼び、
この生起情動は調律されるとしました。

例えば、乳児が玩具に興奮して「アー」
という喜びの声をあげ、母親の方を見る。
母親はその目を見返し、上半身を大きく揺すってみせる。
その体の動きは、子どもが「アー」って言っている間続き、
子どもと同じ喜びと興奮に満ちている。

ここで母親は行動の背後にある情動レベルで交流している。
これが情動調律の説明です。
スターンはこの情動調律を精神療法に応用しています。

療育 音楽療法の現場

前述の例では色を分けて、①~③の段階で示してみました。
赤ちゃんと母親の気持ちの移りかわりがつたわったでしょうか。

この例では、赤ちゃんの【不快】から始まったものですが、
母親と赤ちゃんは同じ感情変化を伴って移行しています。
これが情動の交流です。

これが私たちがとっているコミュニケーションです。

 

 

療育の現場では、この情動の交流の理論を活用しています。
そして、音楽療法士は音楽を用います。

子どもの行動と視線の先は何かを把握することがとても重要で、
その子の気分や情動に合わせたこちらの動きを
どうやって歌でマッチングさせるかが手腕の見せ所です。

発達のステージが幼いほど、
前提感覚である【揺れ】の要素が大切です。

だっこをする場合に、歌のリズムに合わせて縦に揺らすのか、
横に揺らすのかで変わってきます。
そして、その揺れは大きく揺らすのか、
小さく小刻みに揺らすのか。
大げさに歌の抑揚をつけて揺れを深くするのか、
浅くするのかなど子どもによって様々です。
音楽療法士が両足で立っているのか、
片足で立っているのかだけでも
子どもに伝わる振動や揺れが変わって、
子どもの反応が変わってきます。

「もっとこうして」と言葉で子どもが表出をしてくれないため、
子どもの情動や自分の情動に焦点をあてることに気をつけるのです。

情動の交流

療育で活用すれば、気持ちの切り替えができず、
泣いている子は、抱っこや歌で泣き止み、

大人とスキンシップがとれない子は
くすぐりやわらべ歌ができるようになります。

逆に、【不快】として、拒否をされる場合もあります。
この場合は、子どもの情動や気分と私の歌があっていないのです。

難しいと思いますが、自閉症の方に表情をみながら歌いかけると
間違えることがあります。

にこにこと笑っておられるから楽しんでいると
勘違いをしてしまい、
「やめて」と
言われることもよくあります。

【情動を交流する】というのは、
発達障害児の療育における要になりますが、
それが本当に難しいのです。

 

療育に関わる者として、
あれ?ちがったかな」という感覚も大事で、
その違和感がその子との関りを促進させるヒント
になるような気がします。

子どもたちには「伝わった」とか
「こうやって言ったらいいんだ」
という体験を積んでいってほしいですね。