<聞き手:島本昌浩(バリアフリーチャレンジ代表)>

実施日:2021年12月19日@Zoom

―「ゆらり」という名前の由来を教えてください。

ゆらり:私はADHDの診断を受けているのですが、
情報収集のためにTwitterを使おうと思い、その時ペンネームをどうしようかと。
まずアイコンにする画像を探していてなんかキレイなクラゲの画像を見つけて。
ふわふわ揺れてるなぁ~って思って、
その音から連想して「ゆらり」と名付けました。

で、だんだん生活が改善して情報発信したいなーって
そのままTwitterのアカウントネームに使った感じです。
すみません。深い意味は何もないです。直感です。

―ADHDとASDという診断を受けているとのこと。
それによって、
生きづらさや困り感があった?

ゆらり:はい。
私が診断を受けた背景が大学まではそんなに困ることはなく

仕事を始めてから本当に仕事ができなくて
いわゆるADHDの物覚えが悪いとか忘れっぽい

疲れやすいなどがすごく出て、最初は発達障害という言葉自体あまり知らなかったけど、
ネットで「新人 仕事ができない」とか調べて、
最初は頑張ればできると思い、ノウハウとかで
やっていたんですが、それでもできなかった。

そしたら検索ワードがだんだん暗くなっていくんです。
「仕事ができない人の特徴」とか。
その中で「発達障害」という言葉に行き当たり、
「私じゃないか」と思いまして。
病院に行って、ADHDの診断を“もらった
という感じなんです。

―発達障害という言葉に行き当たって、
病院に行くというアクションを採ったのは、

「行った方がいい」とサイトに書いてあった?

ゆらり:書いてませんでしたが、
「薬があり、それで楽になった人がいる」
という情報があったので
私は仕事ができなくて発達障害を知るまでに
7,8ヶ月くらいかかったんですが、
その間に自分でできることは全てやったので
「もう薬しかない。病院に行って薬をもらって
このしんどさを改善するんだ」
と思って先輩にこれ以上迷惑をかけられない
というのもあり
病院に行きました。
限界やったんです。

―今の話からすごく生真面目な方という印象を受けました。
仕事の場面に出るまでの人生で困ることは特になかった?

ゆらり:おっちょこちょいやなとか鈍いなとかはあったけど、
事前の準備をしておけば他の人といざこざになることもなかったです。
性格やな程度に思ってましたが、仕事では支障が出ました。

―私は発達障害にすごく詳しい訳ではないですが、
複雑な手順の仕事や同時にいろんな作業をするマルチタスク
を要求されると
そういう特性が出るのかなと感じます。
そこで自分が発達障害だという診断を受けて

良かったという感じだったのでしょうか?

ゆらり:はい。かったと思います
受けた時は、自分の甘えじゃなかった
努力不足じゃなかったと思って救われました

これから薬を飲めば迷惑をかけずに済む
と思っていたんですが、薬による体調不良があり、
隠しきれずにある時上司を泣かせてしまったんです。
発達障害をカミングアウトすると、解雇される事例を
多く聞いていたのでずっと隠し続けていました。
失業する訳には行かないので働き続けるために
そうしていたのですが、先輩に
「どうしてそんなにできないの?
私の教え方が悪いの?」と泣かれた時、
情けなくなって辞めるつもりで「ごめんなさい。私ADHDでした」
と言ったら、引き留めて頂きまして
それで何とか今の職場で働き続けられています。

―その先輩がそういう方で良かったですね。

ゆらり:本当に良かったです。その方でなければ、今の私はありません

―そうだったんですね。薬の副作用が出ていたようですが、
薬を服用していなかった時と比較すると、

仕事のパフォーマンスは上がったんでしょうか?

ゆらり:仕事しやすいです。
異様なまでの疲れは出なくなったし、
集中力も上がりました。

トータルで比べると、薬のおかげで身体は楽になっています。


で、カミングアウトして、
トップの社長は私の障害について知らないんですけど、
10人以下の小さい職場なので私以外の
スタッフ全員がこのことを知っています。
現在、その上司にあたる方は退職されて一番勤務歴の長いもともとパートの方が
社員として先輩のポジションに就いて私と2人が正社員で
あと4,5人のパートさんと働ています。

―じゃぁ、もうすぐ辞めた先輩がいたポジションにいる方を
ゆらりさんが追い抜いて
そこに就く感じ?

ゆらり:う~んと、社員の二人の仕事量は同じくらいなので
今は同等の責任を背負って頑張っています。
皆さんとてもやさしいので助かっています

ポジティブな情報発信がしにくい!?

―先ほどTwitterで色々検索して情報収集をした
という話がありました。
カミングアウトすることで
解雇される事例を見た
というのもその過程においてだと思います。

発達障害でゆらりさんのようにカミングアウトして
職場の理解が得られてうまく働き続けられる場合と
そうで倍場合の両方がある。
どちらが多数派だと感じられますか?

ゆらり:私の調べた範囲では、辞められている方が多いと思います
ですが、私が発信者として感じるのはいい事例を発信すると、
今しんどい立場にいる人から
「あなたは環境が良かった」
「あなたは運が良かったから」とか多分嫉妬や
自分のしんどさからだと思いますが、
文句を言われる感じになり、
自分が発信することで傷ついてしまうので、
うまく働いている人の事例も
聞くのですが、
れを積極的に発信しない人が多い
と考えています。つらい情報、暗い情報が流れがちです。

―まぁ、そうでしょうね。
自分が追い込まれると、
いい状況ににある人のことを妬みがちになるし、

それを自分にとっていい情報として内面化して活かす
というのは、酷な話かもしれないですね。

らり:そうですね。
それはよくわかっているので、
私はしんどい方も楽になって欲しい
と思って発信しています

攻撃されるのが嫌というのはよくわかるので
他の元気な方がなぜ発信しないのか
という理由も分かります。

ですので、それについて怒りも感じません。

―うまくいっている人たちで
連帯していこうということは思わない?

ゆらり:連帯されている方は結構います。
ただ私はう~ん、どうやろ。

私自身はうまくいってる人たちのコミュニティの応援は
すごくしているけど、
そこにに入りたいという欲求はない。
そういう人達の情報を拡散したりはしています
所属はしていないです。

―自分がそのような動きを率先してやろうとは思わない?

ゆらり:コミュニティを創ろうみたいな感じ?

―自分が先頭に立ってやっていくというスタンスですね。

ゆらり:私は先頭に立つリーダータイプではないと思います。
頑張るとしんどいのでマイペースで
ゆっくり発信したいです。

長くやり続けるために、頑張らずに
自分のペースで細々と

でも着実に継続したいと思っています。

―ファーストペンギンが切り開いていた後の
フォロワー的な立場がいい?

ゆらり:う~ん。そうですね。
ファーストペンギン、先駆者かぁ。

先駆者の方はそれなりにいらっしゃるし、
「ファーストペンギン」

というような考え方はあまりしていません。
個人でやれることをやれば
それは素晴らしいと思う。

行動のインパクトでなく、
私が応援したいと思った人は
知名度は無関係に応援します
そんな感じです。

―同じ応援するにしても応援するリソースを
この人を応援したら、
今しんどい立場にいる人たちのために
より効果的に影響を与えられる
という感じの戦略はもってますか?

ゆらり:そうですね。
発達障害についてはいろんな方がいて、

誰にアプローチするのが効果的かが分からない。
近道がないと思っているから、あまり考えてません。

―まさに「ゆらり」って感じですね。

ゆらり:そうですね。支援者さんとも関わってるのですが
つぶれてしまう人の共通点は、

「頑張りすぎでアウト」
と思っています。

まず、自分を大事にして、できることをやる
目の前にいる困ってるとか助けたいと思う人に手を差し伸べて
「協力するよ」
と言われたら、
すごく喜んで受け入れてみたいな。

計画立てるのは好きなんですが、
臨機応変に動くところもあります。

―計画を立てるのが好きとのことですが、
「ゆらり」という名前の付け方からして、

ロジカルに考えるというよりも
直感的な側面が強い方なのかなと感じます。

ゆらり:(笑)ノリや勢いでも動くけど、
私は慎重派と評されることが多いです。

半々くらいですね、多分。

―「ゆらり」という匿名での発信活動をされていますが、
(そもそも発信しないという選択もできるのに)
匿名にしてまで
自分の発達障害のことを発信するのはなぜですか?

ゆらり:ADHD,ASDの当事者と言うだけで
自分を固めてしまって
生きづらくなっている人がいるので、
その生きづらさを解消するために

いわゆる診断を受けていない「健常者」
ともうまくやれてますよ
ということを
ふんわりと発信していたら、
自分は「障害者」という強烈なアイデンティティで
固まっている人をほぐせるかなぁ
と思ってゆらりとして本名と切り離して
自分を発信しています。

自分を「障害者」と思い過ぎてる方とは対話がしにくいので。

ーちなみに、障害者手帳はお持ちですか?

ゆらり:持っています。

―全てはフォローできてませんが、
ゆらりさんの表現は面白いと思います。

当事者でありながら、俯瞰して捉えて
そこにユーモアの香辛料
をまぶして
投げつけるみたいな印象です。

ゆらり:ありがとうございます。
そこは意識してるかな。

当事者が辛いと思って辛い感情を
そのまま相手にぶつけてしまうと、

きっと受け手の負担になると思うので、
ユーモアのセンスがいいかどうかは
置いて、
結論はちょっと笑える感じにしないと
読んでる人が辛いかなと思って。

ただ、負担にならないように、
と心がけた結果、読む人によっては
皮肉ととられる
ような内容になるのかもしれません。

―自分が障害者だと思い、
殻にこもってしまうようなとこをほぐしたい
とおっしゃいましたが、
逆に
「あなたは環境が良かったから」
と「当事者」意識の強い人からすると、
ゆらりさんの
発信は、「上から」と
受け取られてしまうこともあるような気がするのですが?

ゆらり:あ。そうですね。
多分そう見えてしまうと思います。
当事者、当事者してる人からすると、
そんなにThe「障害者」という感じでなく
片足突っ込んでる私が言うことが「上から目線」
受け取られることは分からなくはないので
それはそれとして受け止めます。
攻撃もされます。

 

一つエピソードを挙げます。
当事者の集まりに行った時に、
「過集中」と言って、一つのことに没頭して
120%の力を発揮し続ける「健常者」
からすると、ある意味羨ましいだろうことを
褒められて傷ついたという方がいました。
なぜ傷つくかと言うと、
この特性は自分でコントロールできる性質のものでなく、
気が付いたら没頭していて集中が切れると
本当に疲れてしまい、そのままうつみたいに
なってしまう方もいらっしゃるから困る特性だからです。

なのに、「羨ましい、すごい」と言われて
傷ついてる方がいらっしゃったので、
相手には見えてるとこしかわからないから
困る部分は見えないし、からわからない。
攻撃されている訳ではないから落ち込まなくていいと思いますよ、
と伝えました。

その際、「あなた健常者の味方をするの」
というニュアンスのことを言われました。

不毛な二項対立を超えて

―あえて、敵、味方にわけなくてもいいのにね。

ゆらり:そう。なんか当事者、当事者をしていると、
健常者が全て敵に見えるのかなと。

この時そんなことを感じまして。
相手は「あなたは障害者だから」
という態度で接してないのに、
こっちが「私障害者。あなたにはわからないよね。敵よ
みたいな。
「その態度こそがあなたを
障害者にしているのでは」
と感じたことがあった。
その殻をほぐして欲しいなと思ってます。

―そうやって当事者性を打ち出すことで
社会が暮らしやすくなるように、
と運動されてきた方々に
敬意は表しますけど、
法整備も進んで障害者の権利が
昔より認められている状のが現状だと思います。
そこで当事者側がその権利を振りかざすようになるのは嫌だな
という思いが個人的にはあります。

ゆらり:私もあります。
これは言ったら、当事者側に殴られるし、
私自身にも跳ね返ってくるので
あまり使いたくない言葉ではありますが、
障害者というラベリングは免罪符ではない」。

この「免罪符でない」
という言葉は今しんどい状況で頑張っている人には
すごくキツイ言葉なので、
使いたくないけど、
当事者性を盾に強い自己主張をしている人もいてるので
そういう人には、
「ちょっと考えてな」と思っています。

―それは自分の胸の内で思っておけばいいことで
さすがに直接言うことはないですよね?

ゆらり:怖いから言えないですね。

―一人一人は点なんだけど、それが括られて、
社会の中で「障害者」として見られた時に

障害者全体が不利益を被るような行動は点であっても
避けて欲しいと僕は思います。

ゆらり:そうですね。
声の大きい人が代表として見られがちなのは仕方ないので、
卑屈になれとはい言わないけど、傲慢になれとも言わないです。

―もっと自然体でフラットに考えればいいやん
という感じですよね

ゆらり:そうですね。

―僕はいわゆる「健常者」というのにも違和感があって、
ある「健常者」と話していて

その方が「障害者」というラベルに違和感があるのと同様に
自分が「健常者」だということ
にも違和感がある
とおっしゃったんです。
自分も病気になるしと。

「健常者」「障害者」で
敵、味方
みたいに
白黒はっきり分かれる話ではないと思う。

ゆらり:そうなのになぁ、
と私は思ってるんだけど、
白黒分かれると考えて敵をつくってる

ADHD、ASD当事者がいて悲しいなと思ってます。
常に健やかな人、
「健常者」なんていないのにね
と思ってます。

―話してみて意識や考え方は近い方だなと感じています。

ゆらり:ありがとうございます。

―ありがたいかどうかわからないけど(笑)

ゆらり:そうですね。(笑)

―ゆらりさんにとって、
私と考えが近いことがいいことなのかどうかね。

ゆらり:良い、悪いの軸では考えてないです。
近い考えの人がおったと親近感を持っただけです。

―考えが全く同じとか全く違う人
って多分いませんよね?

ゆらり:そうですね。
いたら怖いですね。
これもはっきり分かれる話じゃない。

これからしたいこと

―最後に、今情報発信されている中で、
今後こうしていきたいというようなことがあれば、
聞かせてください。

ゆらり:あります。
発達障害の人の中でもそこそこうまくやれてる人とか

診断を受けて往左往して情報収集が上手くできないとか
いろんな人がいます。

発達障害の人でも不特定多数に発信するのは難しい
と思うので、
今私が焦点を当てたいと思っている層が
発達障害に不安を抱えている人」です。

例えば、わが子が発達障害で子どもの心配
をしている人の不安を軽減したい。

とにかく不安を取り除く発信をしたいと思っています。

―そこは広く「発達障害について不安がある人」
でそれ以上絞り込まない?

ゆらり:これが難しいですね。
ネガティブな情報があふれていて

そっちに焦点を当てて不安になって
子どもにかまい過ぎてしまい

結果自立の妨げになってるかな
という人もいらっしゃる。

「普通にさせたい病」
がすごいと感じています。

多数の平均でいる方が日本では生きやすい
というのもあるし、
発達障害の場合、
支援級に行くか、普通級に行くかで保護者の方は

どうしても「普通級に行った方がいいんじゃないか」
とか
思うんだけど、ケース・バイ・ケースだから、

両方のケースで今大人になった当事者の話を聞いていると、
普通級でいじめられたから
特別支援学校に行きたかった
という方もいれば、先生にもよるでしょうが、
支援級に行って、自分ができることを延々とやらされて
つまらなかったという方もいる。

保護者の希望に沿った結果のミスマッチが多いと感じます。

―ゆらりさんの場合は、学びの過程では、
障害が問題になることがなかったが、

大人になって仕事の場面で初めて問題になりましたよね。

そこから学んで知識がついて
このように問題を考えていらっしゃる。
その立場から、学びの過程で不安のある人に発信したい。

自分の人生とは被ってないとこが興味深いんですけど?

ゆらり:なるほど。
私だんだん生きやすくなってきて、

対話のイベントに参加して
そこで教員の方に出会いました。

コミュニティ創ると言ってて、
「面白そう」と思って
そこには入ったんです。

誰でも参加できるんですが、教員の方が多くて、
教育についての問題意識が高くて

そこで、私より下の小・中-高・大学生
についての話を聞いてると、
発達障害の診断を
受ける人が増えているとか
保護者の普通にさせたいという圧力が強い
と先生で思っている人も
いるというのを聞いて、
そちらに関心が向かったという次第です。

―発達障害という言葉が入った法律がのができたのがここ10年間
くらいで市民権を得たのもそれに伴ってだと思います。

市民権を得たからこそ、子どもの頃から、
そういうラベルに引っ張られて
診断を受ける子ども
が増えたというのがありますよね?

ゆらり:ありますね。とりあえず、私は、
発達障害について不安を持っていて冷静になれていない方を
安心させられるような発信をしたいと思っています

投稿者プロフィール

島本 昌浩
島本 昌浩
バリアフリーチャレンジ!代表
challenged-view編集長