相互の歩み寄りが暮らしやすさへの近道

2017年6月、「バニラ・エア」問題でにわかに脚光を浴びていますが、

障害者差別解消法がひっそりと施行されたのは2016年4月1日のこと。
「ひっそりと」は私の主観です。

 

当時、テレビ、新聞等のメディアや私が取っている士業やコンサルタントが発行する10を超えるメルマガを見ていて、

このことをしっかりと取り上げているのは、皆無に近かったからです。

 

私自身はメルマガで一昨年この法改正について既に触れていて、
「一般の人に、ただちに影響はない」旨を述べました。

規定からして、法的な意味では、この解釈は変わりません。

しかしながら、情報発信する当事者として、 補足しておきます。

1.障害者差別解消法の概要

法律の内容を要約すると、事業者による《不当な差別的取り扱い》を一律に禁止。

また、《合理的配慮の提供》を国、自治体には義務化、民間事業者には努力義務として求めています。

バニラ・エアの問題は「歩けない人は乗れない」としていたようですから、一律に禁止される障害を理由とした

差別的取り扱いに該当する可能性が高く、簡易な代替措置を今回の問題を受けて講じたようなので、

タラップをいざって搭乗する形になったのは合理的配慮の不提供に該当すると思われます。

ここではバニラ・エア問題を深く論じるつもりはありません。

問題を契機にこの法律を分かりやすく解説します。

適用対象が事業者ということが、「一般の人に“ただちに”影響はない」
という論拠です。
とはいえ、多くの人は事業者に雇用されています。

そして、就業現場で障害者と接する立場にあります。

例えば、バニラ・エアの従業員であれば、軽く考えて対応すると、今回のように

大きな騒動になり得るので企業はキチンと趣旨を理解し、

従業員研修等で対策を講じ、リスク管理しないと企業イメージが大きく損なわれかねません。

また、私のような個人事業主も現段階では、努力義務ですが、合理的配慮の提供を求められています。

つまり、実体としては、多くの人に影響がある。

というわけで、最低限知っておくべきこと及び
当事者として私が思うことをまとめます。

2.法律の目的

法律というものは、まず、なぜこの法律があるのか
という目的が最初に来て、次に言葉の定義
そして各条項が来るという構造になっています。

この法律を当てはめて簡潔に言うと、

「障害者への差別をなくすことで、
共生社会を実現すること」
と解釈できます。

3.差別の定義

次に、現実問題としてより大切なのが、
何が差別に当たるのかという定義です。

①「不当な差別的取扱い」を“すること”
②「合理的配慮」を提供“しないこと”
この2つが差別と規定されています。

することとしないこと、

この相反することが内容となっているので
混乱しないように①②の内容についての
正しい理解が必要です。

 

①は正当な理由がないのに、

障害があることを理由にして、
障害のない人と障害者を区別したり、
障害者を排除すること、
また障害者の権利を制限することです。

具体的には、障害を理由にしたアパートへの入居拒否、
車椅子利用者であることを理由にした入店拒否が該当します。

ただ、後者は微妙なケースもあると思います。
この辺は、実際に運用していく中で事例が蓄積され、解釈が固まるはずです。

それが法律というものです。

個人的には、バニラ・エアの問題は表面的に見るのでなく、

このような対応をとれば、世間はこういう反応を示すという一つの事例と冷静に見るべきと思います。

搭乗された方はアクティブに世界中を旅してきた方で発信力もあります。

ところで、微妙とした前述のケースですが、これはできる限り②の合理的配慮により、解消して行くことが求められます。

4.合理的配慮について

合理的配慮とは、「過重な負担が生じない範囲で」その個人に対して行う支援のことです。

 

車椅子の人がいるからということで全ての飲食店の設備をバリアフリー更にユニバーサルデザインにできるなら、
それは意味のある投資ですが、難しい場合もあります。

その場合でもソフト面で対応できないか考える。

 

そのような姿勢が非常に大切で事業者に求められていることです。

さて、この法律についての私の考えについて。

前述のことは障害者の先人たちが勝ちえた「権利」と言って差し支えないと思います。

「自分たちのことは自分たちで決める」と立法に向けて尽力された方々には敬意を表するものです。

しかしながら、私個人は必要な時は声をあげるべきだと思いますが、

殊更に「権利」を振りかざすような行動は慎むべきだという立場です。

 

社会の側が配慮するのと同様に

障害者の側も配慮を受動的に待つだけでなく、

できる限り社会に歩み寄るという意識でいた方が、
より暮らしやすくなるのではないかと思います。

 

そのために、障害者側はどのような配慮をしてもらいたいかを
分かりやすく積極的に相手に伝える必要があると思っています。

 

私は無理のない範囲で杖歩行をする能力がありますが、
今後を考えて屋外では車椅子メインの生活にシフトしました。

 

現在外で車椅子の私が歩き出すのを見て、初対面の方はびっくりされることがあります。

私の障害の程度が、人から見ると分かりにくい訳です。

ですので、この場面では、こうして頂きたいという希望を明確に伝えるように心がけています。

具体例を。
あるセミナーの懇親会に参加した時のこと。

そもそもこのような場に参加する際は、自分の身体条件で大丈夫かを必ず確認します。

「車椅子で参加可能です」とのことでした。

参加したところ、店内に相当な段数の階段のある構造のお店でした。

そこで「話が違う」と怒っても仕方ない訳でどう対応しようか、考えました。

私の車椅子は簡易電動というタイプです。

それを私が乗った状態で何人かで担ぐという提案がありました。

しかし、私は「いや、ちょっとお待ちください」と止めました。

私の体重と合わせると100キロ弱になるのでリスクが高いと判断したのです。

私は杖歩行できますし、階段に手すりがあったので歩いて行けると思ったのです。

 

空の車椅子を運んで頂き、私の転倒リスクを軽減するために、
「こちら側に立って、ベルトを持って頂けますか?」と介助をお願いしました。

このような明確な意思表示は歓迎されているというのが私の印象です。

ある意味中途半端な身体条件なのでこのように思うのかも知れません。

 

この法律は施行に向けて何が合理的配慮でどこまでしないといけないか、など議論がありました。

今後も現場は微妙な判断を迫られると思います。

法律は施行後の事例の蓄積(場合によっては、判例という形での裁判所の判断)

によって完成していくので時間が必要なのです。

 

投稿者プロフィール

島本 昌浩
島本 昌浩
バリアフリーチャレンジ!代表
challenged-view編集長